バリアフリー推進事業

平成24年度ECOMO交通バリアフリー研究助成対象事業 成果報告

研究助成名

高次脳機能障害者が電車を利用する際の困難さに関する調査研究 (237-4)

研究者名

国立障害者リハビリテーションセンター 中山剛

キーワード

高次脳機能障害,地誌的障害,電車,駅舎,携帯電話,行動プロンプト

研究内容

(研究目的)
高次脳機能障害とは頭部外傷,脳血管障害,脳炎,低酸素脳症,脳腫瘍等による脳の損傷の後遺症として,記憶障害,注意障害,遂行機能障害,社会的行動障害など認知障害が生じ,これに起因して,日常生活・社会生活への適応が困難となる障害のことを指す.高次脳機能障害の中の一つに地誌的障害と呼ばれる道順や地理に関する障害があり,日常生活や就労において大きな障壁となっている.そこで,高次脳機能障害者に対する交通バリアフリーの促進を目的として,高次脳機能障害者が電車を利用する際の困難さを調査する.また,携帯電話のGPS機能等によるプロンプトが有効であるかも合わせて検証する.

(研究手順)

方法は以下の通りで研究代表者所属機関の倫理審査委員会の承認を受けて実施した.
・高次脳機能障害者・家族に対するヒアリング調査
・高次脳機能障害者の外出時の観察と携帯電話による介入評価
・高次脳機能障害者・家族に対するアンケート調査

(研究成果)

  1. 1.高次脳機能障害者・家族に対するヒアリング調査
     高次脳機能障害者,家族,支援者33名が参加して高次脳機能障害者が電車を利用する際の困難さに関する会議を実施した(2012年11月).聴取された意見や要望を分析したところ,「混乱する」と「不便」の2語,「改札」「位置」「わかりにくい」の3語にそれぞれ強い繋がりがあることが示唆された.なお,具体的な要望は中間報告を参照されたい.また,高次脳機能障害者や家族への面談,メールや電話などでの情報収集を多数実施したが,そのうち福島県で実施したヒアリングで得られた意見や要望の一部を列記する.

    • 回数券を無くしてしまって,無賃乗車と怒鳴られたこともあった.そのような状況を未然に防ぐためにも障害者専用の出口や改札があれば良いのに.
    • 東京では障害者で助けが必要な方に対するシールがあり,公共交通機関を利用する際に係員が助けてくれるので非常に有用であるように思う.
    • 半側空間無視の方にとってホームの隙間や転落など非常に危険ではないか.最近では柵や2重ドアなどの工夫はなされているが現状まだまだである.しかし,田舎でこのような措置をとっても採算がとれるのか疑問であり,なかなか実現しない.
    • デイケアはあるものの,郡山駅からのアクセスが悪くなかなか通うことができない.

    2.高次脳機能障害者の外出時の観察と携帯電話による介入評価研究
    高次脳機能障害者の電車利用時の観察研究を実施した結果,「切符の購入額がわからず一番安い価格の切符を購入した」「出口ではなく乗り換え口の改札を出ようとしてスタッフに止められた」「降車駅で自分から進んでは腰を上げることはしないなど降車の認識がなく,同行者からの声掛けが必要であった」という状況が観察された.また,外出時に同行者が必要な高次脳機能障害者3名による携帯電話のGPSアプリ及びナビアプリの評価を実施した結果,携帯電話の機能が高次脳機能障害者の外出や公共交通機関の利用時に有用な場合が確認された.加えて,障害当事者の位置確認が可能なことが家族の安心に繋がることも確認された.他方,GPSの精度や受信エリア,駅と駅周辺の複雑な立体構造,携帯電話自体のバッテリの問題などが確認された.なお,詳細は中間報告を参照されたい.
    3.高次脳機能障害者・家族に対するアンケート調査
     自記式の調査票(高次脳機能障害者用のA版と,失語症者用に一部質問の表現を変えたB版の2種類)を,高次脳機能障害者の家族会や支援団体を通して配布した(2012年10〜12月,東京,神奈川,埼玉,千葉の4都県).調査票は各々の団体の代表者を通して会員や団体員に配布され,研究者に郵送返信された(2013年2月までに回収).配布票数1758通(A版979票,B版779票),有効回答票数は684票(回収率39%),うちA版417票(43%),B版267票(34%)であった.その結果,一人で電車や地下鉄に乗ることができる人が67%,主に身体機能が原因で同行者が必要な人が12%,主に高次脳機能障害が原因で同行者が必要な人が17%であった(n=549).電車や地下鉄の駅の構内で良く迷う人が10%,たまに迷う人が31%,あまり迷わない人が33%,まったく迷わない人が27%であった(n=521).高次脳機能障害者用のA版の回答のみの集計では電車や地下鉄の駅の構内で良く迷う人が13%,たまに迷う人が34%と両者合わせて47%であった(n=326).回答者全体で,駅を利用する時に改善してほしいと感じたことがあることとして,駅構内の表示が54%,自動券売機が45%,自動改札が43%,プラットホームが41%,電車内が49%であり,いずれも4割を超える回答者が何がしかの改善要望があることが分かった.
    以上,本調査研究の結果,相当数の高次脳機能障害者が電車を利用する際に困難を抱えており,交通バリアフリーに対して多くの要望を抱えている現状が明らかとなった.

     なお,本研究は共同研究者として伊藤篤氏(株式会社KDDI研究所),上田一貴氏(東京大学大学院工学系研究科),篠田峯子氏(郡山健康科学専門学校),菅原育子氏(東京大学社会科学研究所),主な研究協力者として平松裕子氏(株式会社KDDI研究所),水村慎也氏(国立障害者リハビリテーションセンター自立支援局)で構成する研究グループで実施された.また,本研究の実施にあたっては,日本脳外傷友の会,東京高次脳機能障害協議会,全国失語症友の会連合会をはじめとする当事者・家族の会に協力を頂き,観察研究の実施の際には西武鉄道株式会社から協力を頂いた.謝意を示す.

アンケート調査結果

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実績報告

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