バリアフリー推進事業

平成23年度ECOMO交通バリアフリー研究助成対象事業 成果報告

研究助成名

災害による節電が視覚障害者の安全・安心に及ぼす影響と効果的な対応策に関する研究--節電(エコロジー)とロービジョン者の移動の安全確保(バリアフリー)の融合を目指した提言-- (237−社2)

研究者名

慶應義塾大学経済学部 中野泰志

キーワード

視覚障害、ロービジョン、節電、照明、サイン、移動、安全・安心

研究内容

(研究目的)
視覚障害者にとって最も大きな障害は、情報と移動が制限・制約されることである。2011年3月11日の東日本大震災では、被災地に住む多くの視覚障害者の安否について、わずかしか情報が得られない状況が続いた。また、復興・復旧が進展するにつれ、比較的被害の小さかった地域においても困難を抱える視覚障害者の声が集まってくるようになった。情報不足や節電に伴う移動の不便さによって不安を感じるというだけでなく、すでに事故事例も報告されており、命に関わる重要な問題になりつつある。そこで、本研究では、災害による節電が視覚障害者の安全・安心に及ぼす影響と効果的な対応策に関する5つの調査・実験を実施した。

2−1.研究1:節電直後の問題点に関する事例調査
首都圏の視覚障害当事者団体に所属する視覚障害者や支援者8名に対して、災害後の節電が理由となって視覚障害者の安全・安心にどのような影響があったかをヒアリング調査した。まず、照明の問題として、階段等の危険が大きい場所においても、照明が消灯されていたり間引かれたりしており、その結果として恐怖や不安を感じたり、転倒してけがをしたりといった事例が報告された。次に、サインの問題として、停止しているエスカレータ等には節電のため停止させていることを示す張り紙が貼られていたが、視覚障害者には情報が伝わりにくかった。また、内照式サインが消灯して視認性が低下し、読み取れなかったり、ランドマークとして使用できなかったりという事例が報告された。さらに、省電力であり節電時の照明として期待されるLED照明は、直下は明るいが少し離れるとすぐに暗くなり、見えにくいという報告があった。
2−2.研究2:視覚障害者に対するアンケート調査
 節電時の困り事や公共交通機関等への要望について、視覚障害当事者団体や盲学校の協力を得てアンケート調査を実施し、全国から568名の視覚障害者と57校の盲学校の回答を得た。集計の結果、8割以上の回答者が節電によって生活に困難や不便を感じていることがわかった。具体的には、駅のプラットホームや階段の照明、街路灯が消灯されていることによって、安心して移動できないという報告が多く挙がった。また、このような事態に対し、移動に必要な場所は消灯しないで欲しいという要望や、視覚障害者の置かれた事態を考慮し、危険な場所では積極的に声掛けをしてほしい等の要望が挙がった。
2−3.研究3:現場の照明等に関するフィールド実験・調査
 新潟市市役所と東京都内の鉄道駅を対象に、測光調査とロービジョン者による歩行実験・調査を実施した。前者の実験では市役所内のエレベータ付近の測光をフロアごとに行った上、ロービジョン者2名にその付近を歩行してもらい、通路の見やすさやエレベータの発見しやすさについて言語報告してもらった。後者の調査では、ロービジョン当事者が調査者となり、都内の鉄道駅構内を歩行して節電によって移動が困難になった場所を指摘し、その理由について報告した。また、その場所での照度を測定した。調査の結果、照明の消灯や間引きによってJIS規格の照度基準を下回っている場所が多々あることがわかった。また、ロービジョン者にとっては、照明が通常どおりについた明るい場所と節電によって暗くなった場所の違いが明確に感じられており、暗い場所では移動経路や他の利用者を視覚的に把握することが極めて困難であった。
2−4.研究4:節電対応LED照明の安全性に関する評価
節電効果が高いとされているLED照明の中には、研究1で報告されたように暗くて見えにくいものもある。そこで、節電対応LED照明がロービジョン者の視知覚に及ぼす影響を評価するための実験を実施した。LED照明を大々的に導入(18,000灯)した群馬県太田市において、ロービジョン者3名による歩行実験とインタビュー調査を実施した。実験参加者の課題は、LED照明の街路灯が設置してある道を実際に歩きながら、気づいた点や気になる点を言語報告することであった。その結果、LED照明自体に関して、参加者全員が通常の白熱灯よりも光が弱いと感じていた。この理由として、白熱灯に比べてLEDは光の拡散範囲が狭く、遠くまで光が届きにくいことが挙げられる。LED照明の直下であれば照明されている範囲は見えたが、照明範囲が狭く、照明が届かない部分には何があるか視認することは不可能であった。また、群馬県太田市に在住、または通学・通勤する視覚障害当事者14名に対し、青色LED防犯灯に関するアンケート調査を実施した。同市において青色LED防犯灯が導入されていたことはほとんどの回答者が認識していたが、その半数以上が通常の街路灯よりも道路等の様子が見えにくくなったと報告した。
2−5.研究5:LED照明と蛍光灯照明の比較実験
 安全な歩行やサイン等の視認に必要な照度を特定するには、環境条件を統制することが困難な現場での検証は難しい。そこで、屋内に同様の環境を用意し、これらの行動に必要な照明条件について、LED照明と蛍光灯照明を比較することによって検討した。大学内の施設にて、部屋を暗室にした状態で各照明の照度測定を行った。その結果、照明直下およびその付近においては、蛍光灯照明よりもLED照明の照度が高かった。しかしながら、距離が200cmを超えたところでは、蛍光灯の照度の方が高かった。以上の結果から、従来の蛍光灯と比較すると、LED照明は照明直下から離れるにつれて照度が減衰しやすいことがわかった。
3.まとめ

 

節電に関する調査より、節電によって視覚障害者の日常生活に大きな支障が出ていることが明らかになった。当事者からは、要点を絞った節電を実施してほしい、危険な場所での声掛けをしてほしいといった要望が挙がった。また、LED照明に関する調査・実験より、LED照明を街路灯等に使用する場合には、従来の蛍光灯よりも照明の当たらない部分が大きいため、視覚障害者が道路の状況を視覚的に把握することが難しいことがわかった。対策として、照明の間隔を狭める等の工夫が必要であると考えられる。

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