バリアフリー推進事業

平成22年度ECOMO交通バリアフリー研究助成対象事業 成果報告

研究助成名

高齢者や要援護者の登坂を考慮した津波避難計画の支援(252-7)

研究者名

岩手大学工学部 南正昭

キーワード

波避難行動、津波避難計画、身体的付加、ソーシャル・キャピタル

研究内容

研究目的

三陸沿岸には、山間部が沿岸近くまで迫り出しているV字型地形が多く見られ、その近辺に居住する住民は津波来週時の非難において、急峻な避難路の登坂を余儀なくされる。しかし、津波被害にかかわらず避難者の登坂に伴う負担を明示的に考慮した避難計画については、まだ十分な知見が蓄積されているとはいえない。
 本研究では、岩手県宮古市田老地区を対象に、避難者個人の避難行動に着目し、登坂が避難行動に与える影響やそのことを考慮した避難計画の立案の可能性について研究する者である。住民らとともに個人を対象とした避難訓練を実施し、避難場所に至る避難路の歩行や登坂が、避難時間や身体に与える影響を調べようとするものである。
 具体的には、避難路の地形(標高と平面距離など)、避難訓練被験者の属性(性別、年齢など)を考慮し、避難所要時間や避難速度との関係等を把握することを通して、津波来週時の個人の避難場所や避難路の選択を支援するとともに、個人の身体状況を考慮した安心して実施できる避難計画の立案につなげることを目的としている。
 また、地域における住民間のつながりに基づく共助が、避難の実効性を高めるとの観点から、津波避難におけるソーシャル・キャピタルの醸成の重要性を明らかにする。戸別訪問によるアンケート調査に基づき、ソーシャル・キャピタルが防災意識に与える影響について分析を試みる。

 
研究手順

本研究は、以下の手順で実施した。
1)ヒアリング調査
 研究対象地域を岩手県宮古市田老地区とし、宮古市役所防災担当部局職員、消防団、自治会長等の地域防災関係者を対象に、ヒアリングを実施した。避難計画の現状や防災意識、地域で求められる津波避難への指針等について訪ねた。高齢者ならびに要援護者の避難への対応ならびに居住地域の地形条件等が避難行動に与えた影響など、避難計画上の基礎的な課題を明らかにすることを目的とした。
2)個人を対象とした津波避難訓練
 ヒアリング結果および先行研究を基礎に、住民とともに個人を対象とした避難訓練を実施した。対象地域の自治会や住民の協力を得て、避難場所までの避難所要時間や避難速度等に関する個人データを収集し、避難路の地形、避難訓練被験者の属性等との関係を定量的に分析することを試みた。避難場所や避難路の選択を支援するとともに、個々人の身体状況を考慮した避難計画・避難支援体制の立案につなげようとするものである。
3)防災意識とソーシャル・キャピタルに関するアンケート調査

 対象地域の住民を対象とし、住民間のつながりに基づく共助が、避難の実効性をあげるとの観点から、共助の促進を目的とした個別訪問によるアンケート調査を実施した。防災意識や避難行動とソーシャル・キャピタル(社会関係資本)等に関する回答結果に基づき、避難者の個人属性や地域特性に関連して、他者への信頼や社会参加意識などのソーシャル・キャピタルの醸成の必要性について考察する。
研究成果

本研究では、津波避難計画の支援を目的に、岩手県宮古市田老地区の住民の協力を得て、避難行動と避難意識の分析を行ってきた。
第一次避難場所に向けた避難には、避難距離、避難所要時間、歩行や登坂に伴う身体的な負荷と、個人の身体状況の間に相互関係のあることが確認された。避難所要時間を短縮することとともに、多様な身体状況の住民を考慮した身体的な負荷を小さくする避難計画、避難施設整備の必要性を指摘した。
また、避難意識とソーシャル・キャピタルの間に相互関係のあることも確認された。個人あるいは地域社会におけるソーシャル・キャピタルの涵養による平常時からの地域社会のあり方が、避難意識の継続を含めた地域の共助につながる可能性のあることを指摘した。
現在、2011年3月11日に発生した津波被害に対し、復興のまちづくりが進められている。この度のような大規模な津波に対しては、津波防災施設の整備だけでは対応できないとの共通認識が形成されつつあり、避難計画を含めたソフト対策の重要性が改めて強調されている。本研究の成果が、田老地区をはじめとする三陸地域の復興まちづくり、ならびに今後も起こるであろう津波災害に対する防災まちづくりに少しでも役立つことを願いたい。

 

バリアフリー設備のご紹介

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実績報告

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