バリアフリー推進事業

平成21年度ECOMO交通バリアフリー研究助成対象事業 成果報告

研究助成名

車いすドライバーの運転行動を考慮したシートに関する研究(344-1)

研究者名

株式会社ユニオンサービス 廣瀬 浩昭

キーワード

車いすドライバー、運転座席、人間工学、体幹保持、安全装置

研究内容

研究目的

都市道路網の発展により、自動車は身体障害者にとって社会参加のための重要なツールになっている。しかし、自動車道路は健常者の走行を前提に設計され、身体障害者の運転行動特性は考慮されていない。我々は、バリアフリーにおける人間工学的研究を進めてきた。その一貫として、車いすドライバーの問題を取り上げてきており、道路利用実態、身体負荷の意識調査、運転時の行動測定と分析を行ってきた。本研究は、車いすドライバーの運転時における運転負荷を軽減できる運転座席の体幹装置や安全装置といった運転環境の開発・導入の前段階として、車いすドライバーの運転行動特性と運転時の身体状況を把握し、それらを考慮した「座席」について研究することを目的とした。

研究手順

運転免許をもつ車いす使用者5名(いずれも脊髄損傷による)を対象として、運転操作中に2方向からビデオ画像を記録して3次元動作解析システムにより頭部の動きを解析し、同時に頚肩部と前腕部の筋から筋電図を導出・記録して頚肩部と前腕部の筋にかかる負荷を分析した。これらの評価指標から、カーブ走行中の運転状況を明らかにし、健常者の走行を基本に設計されてきた運転環境が満足のできるものかどうかを調べた。なお、実験は被験者の同意を得て行われた。筋電図波形はRoot Mean Square処理を行い、平均筋活動量を単位時間あたりの筋電図積分値として算出した。走行コースは安全な施設内とし、事前の聞き取り調査や走行状況の観察から、運転負荷の大きいカーブで行った。

研究成果

頭部の動きを総移動距離(左右方向・前後方向)として図1に示した。左カーブでは10、20 km/hと比較して30、40 km/hでは顕著に総移動距離は増大しており、30 km/h以上になると頭部が大きく移動することが分かった。一方、右カーブでは40 km/hで増大傾向にあるものの、走行速度と総移動距離について一定の関係性は認められなかった。次に、筋電図積分値を図2に示した。左右カーブの速度条件別における平均筋活動量を比較すると、走行速度が速くなると平均筋活動量は高値を示す傾向があった。とくに走行速度40km/h条件時では、いずれの測定部位でも平均筋活動量は最も高く、常に筋緊張の高い状態にあることが分かった。また統計的検定として、左カーブでは20〜30 km/h条件間で左頚肩部(t = 4.39, p < 0.01)と右前腕部(t = 5.13, p < 0.01)に有意差が認められた。右カーブでは30〜40 km/h条件間で右前腕部(t = 5.22, p < 0.01)に統計的有意差が認められた。また、右カーブと比べて左カーブの方が、左前腕部(橈側手根伸筋)と左右頚肩部(僧帽筋)の筋活動量が大きかった。左前腕部は手動レバーを把持する手関節・肘関節の固定、右前腕部はハンドルを把持する手関節・肘関節の固定に働き、左右頚肩部は肩甲骨・体幹の固定と関係している。脊髄損傷による車いすドライバーは、上肢でステアリングだけでなく加減速レバーを使ってアクセル・ブレーキ操作を行っている。しかも、体幹機能障害のため座位の安定性が不十分となり、運転操作時の座位を安定させるために通常運転のレベルを超えた筋緊張が必要となっていたと考えられる。走行速度が速くなると走行に伴う遠心力が増して座位安定性に大きな影響を受け、とくに左カーブ走行では右腕を伸展させた状態でステアリングを押さえつけ、左肩部を中心として体幹を固定するのではないかと推測した。なお、左右の平均筋活動量を単純には比較できないため今回の解析では明確には言えないが、左側より右側の筋活動量が高値を示していることからハンドルを把持・操作している右側の前腕部・頚肩部に過剰に負荷がかかっているのかもしれない。

自動車は健常者の身体機能を基本として設計されているため、車いすドライバーが自動車を使用する場合は運転補助装置を使用するなど運転者自身が自動車に合わせなければならない。本研究の結果から、走行速度によっては運転負荷の大きさが異なり、安定した姿勢での運転操作が困難な走行条件があることが分かった。車いすドライバーの安全運転を支援するためには、走行速度による運転状況の変化によって運転に影響を与えないような操作環境を整備することが求められる。具体的には、車いすドライバーでは速い走行速度でカーブを走行すると身体負荷が大きく、とくに左カーブで顕著であることから、左カーブ走行時の体幹安定性が補償できる体幹保持装置の開発が安全装置という観点からも必要であろう。
 

走行速度と総移動距離(mm)の関係

図1 走行速度と総移動距離(mm)の関係

 

走行速度と筋電図積分値の関係

図2 走行速度と筋電図積分値の関係

 

バリアフリー設備のご紹介

バリアフリー設備のご紹介

実績報告

成果報告会