バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第66回バリアフリー推進勉強会 開催結果概要

高速道路休憩施設のユニバーサルデザインの現状
− 発達障害にやさしいSA・PA 調査結果からわかったこと −(その2)

開催日
2022年2月7日(月曜日)14:00〜15:30
開催場所
オンライン(ライブ配信)
お話頂いた方
橋口亜希子さん(発達障害を手がかりとしたUDコンサルタント、橋口亜希子個人事務所代表)
伊藤 佑治さん(中日本高速道路株式会社 保全企画本部 i-MOVEMENT推進室)
荒木 華子さん(中日本高速道路株式会社 名古屋支社 名古屋保全・サービスセンター)

講演概要

「発達障害にやさしいサービスエリア、パーキングエリアの調査
 −東名高速道路上下線の調査で確認できたこと−」 橋口亜希子さん

(以下、講演概要)

 今日は2回目ということで、「発達障害にやさしいサービスエリア・パーキングエリアの調査」について、この場で勉強会として報告させていただけることに感謝したい。2020年に行った、東名高速道路の上下線の調査で確認できたこととして、本日以下の4つをお伝えしたい。

1.調査の目的
2.調査結果をまとめた報告書について
3.好事例の紹介
4.私の願い、そして実現したいこと

1.調査の目的
 まず、発達障害において「高速道路は貴重な移動手段の1つ」である。なぜなら、飛行機や新幹線など、ほかにいろいろな人が乗っている中で周囲の視線が気になる、たくさんの人がいる中で騒いでしまう、パニックになったらどうしようなど、さまざまな困りごとから、自家用車で移動できる高速道路が貴重な移動手段となっている。
 一方で、
・どのサービスエリア・パーキングエリアが利用しやすいのか分からない
・自分たちにとって利用しやすいサービスエリア・パーキングエリアの情報がない
・行き当たりばったりで行くしかない
という困りごとも多く聞こえる。パニックや混乱を未然に防ぐために、ふだんは自分でトイレに行ける人にオムツを使用してトイレ利用さえも諦めているとの声も聞こえる。
 でも実は発達障害にやさしい利用しやすい設備がたくさんあり、今の課題は、発達障害にやさしい利用しやすい設備があることが「事前情報」として必要な人に届いていないことだと思っている。
 だから、調査の最終目的は、発達障害に必要な移動支援の1つである事前に予習・見通しが立てられるように、いいところ発見隊として見つけた好事例を「事前情報・学習」コンテンツ(冊子)に盛込み、「情報保障」を実現したい。

2.調査結果をまとめた報告書について
 どこがどのように好事例なのかという考察のため、2つのステップを踏んだ。
<ステップ1>
 これまでの私の子育てや活動、さまざまな経験・知識・知見に基づき、現場現認で実際にサービスエリアに行って「いいところ」を発見した。撮影した写真は上り線・下り線で約6,000枚になった。
<ステップ2>
 評価や考察をするには、客観的な視点がとても大事である。特に私は、自身が発達障害の子の親であることから主観的になりやすい。客観的な視点として国土交通省が発行している次の3つのガイドライン等を参照した。
 「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」
 「バリアフリー整備ガイドライン(旅客施設編)」
 「知的障害、発達障害、精神障害のある人のための施設整備のポイント集」
これらを参照して根拠を示しながら、なぜここが好事例なのか、そのポイントごとの理由をまとめた。
報告書の中身は以下の7項目(報告書は234ページあるがハイライト版も作成した)。
1.調査目的
2.実地調査要旨
3.具体的なポイントごとの好事例提示(トイレ、レストラン、売店、休憩など)
4.各サービスエリア・パーキングエリアのポイントごとの好事例提示
5.調査から見えた調査結果の活用方法
6.調査から見えた課題
7.まとめ、今後の展望

3.好事例の紹介
 実際に好事例を紹介しながら、その評価、考察に関して具体的に説明したい。
 1つ目、使用の有無が視覚的に分かりやすい満空表示板。これは豊橋(とよはし)のパーキングエリアの下り線にあるが、これを見たときは大変感動して優しいと思った。発達障害のある人たちの困りごとの中に状況判断の苦手さがある。だから混んでいるときにどっちが空いているか分からなくてうろうろすることがある。そういった中で、ここは7つ空いてるよ、こっちにはこういう設備があるよ、というようにまず視覚的に分かることが優しいと言える。また、発達障害の人たちは、視覚優位と言われており、この視覚情報がとても役立つ。
 これがなぜ根拠のあるいいところなのか。根拠を示すものとして、まず、【高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準】2.7.1が大きなポイントになる。「個別機能を備えた便房の設計標準留意点として、他の個別機能を備えた便房の位置を示す表示、利用したい便房が使用中の場合等に、他の便房へ行くことができるよう、他の階や場所にある個別機能を備えた便房の位置を、便房の付近に表示することが望ましい」と書いている。だから、どんなトイレがどこにあるか、これは分かりやすいと言える。必要最低限の言葉と数字で空き情報が大きく表示されていて分かりやすい、というところをいいところの根拠とした。
 2つ目の好事例。分かりやすい空間構成。私が調査をしていて、好きなサービスエリア・パーキングエリアというのがいくつかできたが、その1つが日本平(にほんだいら)の上り線パーキングエリア。発達障害のある人たちは、空間認知というというところでも、ごちゃごちゃしていると分かりづらくなるという困りごとがあるので、分かりやすい空間構成というのはとても大きなポイントだ。
 根拠を示したものは、
 1つ目は、【高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準】
 (1)共通する事項@設置数、配置というところ。「個別機能を備えた便房の位置は、他の便所と一体的、若しくはその出入口の近くに設ける等、利用者が位置を把握しやすく利用しやすいものとする。」と書いてある。
 これはなぜ分かりやすいかというと、まず1つ目は、洋式の便座の扉が濃い茶色になっている。そして左側の奥にある、薄い茶色というかベージュのところは、和式の便房になっている。だから、濃い茶色が洋式で、薄い茶色が和式と、見た目で分かりやすく使いやすい。便房の位置も分かりやすく、利用しやすくなっている。
 2つ目の根拠を示すものとして、【知的障害、発達障害、精神障害のある人のための施設整備のポイント】
 (1)わかりやすい空間と動線を根拠として示すものとした。「知的障害、発達障害、精神障害のある人の中には、複雑な空間を理解できなかったり、表示された情報を理解することが困難な方がいるため、連続した明快で簡潔な動線やわかりやすい空間構成は有効である。」
 それから
 (2)明るさの確保、「知的障害、発達障害、精神障害のある人の中には、暗いと不安になる人がいるため、十分な明るさを確保することは有効である。」「照明を進行方向に合わせて設置することで、直感的に進行方向をわかりやすくすることは、広い空間で進行方法を認知することが難しい知的障害、発達障害、精神障害のある人にとっても有効である。」と書かれている。
 理由としては、奥まで明るく、見通しがよく、全体を把握しやすく、どこにどんな設備のトイレがあるのかが分かりやすい。また、奥へ続いている天井のスポットライトが、ある意味誘導灯の役割も果たしており、日本平パーキングエリアのトイレを、分かりやすい空間構成の好事例として挙げている。
 3つ目の好事例。女性用トイレ内に子供用洋式便器というのが、浜名湖(はまなこ)のサービスエリアであった。なぜこれがいいトイレなのか。国土交通省の【高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準】は、設計の考え方として、「バリアフリー法に義務付けられた車いす使用者用便房とオストメイト用設備を有する便房を設ける。さらに高齢者、障害者、乳幼児連れ利用者等の多様なニーズを踏まえ、それぞれの利用者特性に配慮した設備や便房の設置を検討する必要がある。」と書かれている。
 ではなぜ女性トイレ内に子供用洋式便器があることがやさしいのか。これは、最初に澤田さんが述べたが、今回、私が調査をして本当によかったと思ったのは、現場現認で、そのサービスエリア・パーキングエリアでトイレ掃除を担当しているスタッフの方々へのヒアリングで分かったことだ。その分かったことの1つが、幼児用便座というものが、女性用トイレや男性用トイレの壁に設置してあり、それを大人用便座の上に付けることができるが、幼児用便座を付けると座位が高くなって、怖がったり、安定しないなどの理由から、嫌がる女児が多く、泣いているお子さんが多いと教えてもらった。私もいろいろな方に聞き取りをすると、男の子は男児用の小便器があるからいいが、女の子はないからそれを使わざるをえない。不安定さとか、女の子のプライド的なものもあり、子供用洋式便器を使いたいという声があることが分かった。大人用だけではなく、ちゃんと子供用の便器も用意されているのがとても優しいということ。
 4つ目の好事例。空間認知のしやすさということで、分かりやすく事例として豊田上郷(とよたかみごう)サービスエリアの下り線を紹介させていただきたいと思います。では、なぜこれが分かりやすい、空間認知のしやすさなのかというと、国交省の【知的障害、発達障害、精神障害のある人のための施設整備のポイント】
 (1)わかりやすい空間と動線、というところに、以下のように書かれています。「知的障害、発達障害、精神障害のある人の中には、複雑な空間を理解できない、表示された情報を理解することが困難という方がいるため、連続した明快で簡潔な動線やわかりやすい空間構成は有効である。」と書いてあります。
 このサービスエリアの何がこの空間認知のしやすさになっているかというと、通路の誘導動線が茶色で分かりやすい。もちろん、錯視といって、穴に見えてしまうなどの課題もあるが、テーブル席などの静止エリアと人が歩く通路の動線が仕切られていて、空間認知しやすく、安心感がある。
 よくレストランであることは、通路と食べるエリアが混合しているため、お盆を持った人とぶつかる、お盆を持って歩くのが不安というもの。だから、このように通路と静止エリアが区切られていることは、とても空間認知がしやすく、とても分かりやすいといえるため好事例として挙げている。
 それから、落ち着いて食事ができる場所ということで、同じサービスエリアの下り線を好事例として挙げた。これはなぜ好事例なのか、根拠は、国交省の【知的障害、発達障害、精神障害のある人のための施設整備のポイント】
 (5)区画された空間、というところに「知的障害、発達障害、精神障害のある人の中には、音に敏感で静かな環境を望む方や、騒がしい環境では情報を聞き取ることが難しい方もいるため、観覧席だけでなく、病院の待合いや、商業施設、ホーム上などにおいても音に配慮した区画された環境を整備することは有効である。」と書かれている。発達障害がある人の中には、光や音というものに過敏である感覚過敏の人もいるため、照度が低く落ち着いて食事ができるスペースの好事例として挙げている。
 それから、昨今注目されているカームダウン・クールダウンのところでも紹介したい。これは由比(ゆい)パーキングエリアの下り線。
 まずバリアフリー整備ガイドラインの旅客設備のところで、カームダウン・クールダウンの配慮事項として、どのようなものを設置するのがいいか書かれている。それから、【知的障害、発達障害、精神障害のある人のための施設整備のポイント】でも、区画された空間というところで、騒がしい環境では・・・ということも書かれている。由比のパーキングエリアは、2階建ての展望室になっているが、人混みを避けて、静かな空間で落ち着くことができるため、周囲の視線や音に過敏な困りごとのある人に勧められる。

4.好事例を必要としている人に届けたい。
 私の願い、そして実現したいこととして、好事例を必要としている人に届けたいということを伝えたい。私は今回、いいところ発見隊で見つけた、いいところをもっと伝えたいし、しかも、楽しく伝えたいと思っている。今回、調査の最終目的である「事前情報・学習冊子」素案を作成した。見開きでA5サイズ子どもたちが楽しめるように、豆知識として、サービスエリア・パーキングエリアの違いであるとか、私も調査して初めて知ったのですが、「みちまるくん」(高速道路のキャラクター)には家族があるということも分かったので、みちまるくんの家族紹介を入れている。すごろくでサービスエリア・パーキングエリアがステップを踏んでいけるように、シールを貼ったりできるようになったらいいなということで、この東名高速のどこに何があるか分かりやすくするためにサービスエリア・パーキングエリアすごろくにしている。
 それから、それぞれのサービスエリア・パーキングエリアのよさや必要な情報も盛り込むために、まず見開きで1ページ、全体の地図があって、どこに何があるかがわかる。発達障害の子どもたちが必要とするであろう気持ちが落ち着く場所や、トイレ、レストラン、売店はこうなっているといったことを見られるようにしている。
 次のページには、そのサービスエリアの具体的なところが見開きで分かるようにしている。よくあるトイレの困りごとというのがとても深刻であることから、トイレというところに1ページ重点を置いて、トイレの全体写真、小便器エリアの写真を掲載したり、女子トイレの全体写真、個室エリアを載せたり、家族と一緒に入れるトイレとして全体写真や小児用便器も載せたいと思っている。
 今回のサービスエリア・パーキングエリア調査で分かったのが、とても更衣室が充実していること。そこが、ちょっとしたクールダウン・カームダウンに使えるのではないかと考えている。
 パパがトイレに行っている間に、待っていることができずに迷子になってしまう、どこかに行ってしまうことを防ぐためにも、ロビーのベンチや待合場所も載せたいと思っている。
 また、気持ちが落ち着く場所として、カームダウン・クールダウンのベンチなど見つけてきたので紹介したい。加えて、売店やレストランはがどうなっているかということも掲載したいと思っている。
 楽しい面も入れたいということで、ぜひ私が伝えたいのが、地域ならではのもの。ここでしか買えないお土産、ここでしか食べられないメニューなど、ここが私たちの自慢などサービスエリア・パーキングエリアの魅力を現地スタッフにお伺いし、それを紹介できればいいなと思っている。
 発達障害にやさしい、利用しやすい設備があることが事前情報として必要な人たちへ届く。冊子で情報保障を実現したいと思っている。だからこそ情報保障冊子を作ってほしいし、「情報保障」には楽しさも必要なので、みちまるくんの力は必要不可欠であり、みちまるくん、みちまるくんの家族がいっぱい登場する事前情報冊子を作りたい。
 最後に、今回の調査、特に上り線に関しては、次にご登壇いただく伊藤さん、荒木さんにご協力いただいたことはもちろん、「中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京株式会社」の泉さん、今井さん、鈴木さんにもお世話になった。この場を借りてお礼申し上げたい。
 ご清聴、ありがとうございました。

「高速道路休憩施設のユニバーサルデザイン化等に向けた各種取り組み」 荒木 華子さん

(以下、講演概要)

 はじめに、トイレの変遷についてご説明したい。1985年以前から現在に至るまでの高速道路のトイレの変遷を写真と年表で示した。
 1985年以前の高速道路のトイレ:公園にあるようなトイレだが、このころにも多機能トイレが一部導入されていた。
 続いて第2期、1986年から1997年の間のトイレ:写真で分かるように、多機能トイレの設備が充実していたり、一般ブースの中に洋式トイレが普及してきている。
 続いて第3期、1998年から2005年くらいまでのトイレ:多機能トイレの設備がさらに充実し、一般ブースの中に、大型ブースやベビーベッドの設置が始められた時期になる。
 続いて第4期、2006年から2011年:高速道路会社が、日本道路公団から民営化したのが2006年。このころから、デザイン性や、パウダーコーナーなど、女性の方が使いやすい設備や、オストメイトブースなどの導入が始まっている。
 続いて5期は、2012年から:さらにデザイン性がアップし、親子トイレなど利用しやすい設備を拡充していった時期になる。
 トイレの変遷の年表:高速道路のトイレは、多機能トイレの整備、オストメイトの導入、点字などの導入に取り組み、サービスレベルの向上とユニバーサルデザインの推進を行なってきた。
 次に休憩施設トイレ整備の取り組みについて。NEXCO中日本では、「チャレンジX」という高速道路事業施策として、「お手洗いの美化等」を策定。その中で、
 (1)サービスエリアにおけるサービスレベルの向上とユニバーサルデザインを推進。
 (2)美しいお手洗いを実現します。
という項目を策定して、お手洗いの整備に取り組んできた。
 東名高速道路を管理する東京支社では、商業施設等のトイレ意匠設計に長けた学識経験者の協力のもと、「休憩施設お手洗いにおける快適空間デザイン検討ワーキンググループ」を設置。
 ワーキングの結果について、改修の事例で、東名高速道路の日本平PAのトイレの改修事例を元にトイレの整備について紹介する。
 1つ目が乾式清掃の採用:従来は、臭気対策や清掃作業の効率の向上のために湿式清掃(床に水を流してブラシで清掃する方法)を採用していたが、湿式清掃だと床が滑りやすくなったり、汚れた印象だったり、お客様に水が跳ねたり等ということがあった。対策として、乾式清掃(固く絞ったモップ等で汚れを拭き取る方法)を採用し、それに見合った床材(ゴムタイル等)を採用した。
 続いてロビーの整備ということで、トイレの前にロビー空間を整備した。トイレにアクセスするためのアプローチ空間、待ち合わせ空間、トイレを屋内化して乾式清掃ができるよう風除室としての役割も併せ持つ。
 次に色や素材の見直しを行った。先の写真のような公衆便所のような、汚い、暗いというイメージから脱却するために、トイレブースや天井に木質(シート材)を採用し、上品さ、風格、柔らかさの雰囲気が出るようなトイレ空間を設計している。
 続いてお手洗いサイン計画の改良。誰もが使いやすく、分かりやすいピクトサインの整備を行っている。これは、先ほど述べたワーキンググループメンバーであった東洋大学の橋儀平教授(現名誉教授)を中心とし、身体障害のある方からのご協力も得て、使いやすいピクトサインの整備を行っている。また、近年の国際化への対応として、ピクトに文字を表記する場合は、日本語の他に、英語、中国語、韓国語の表記を行っている。
 次に、バリアフリーに配慮したトイレの取り組みについて3つの設備を紹介したい。
 まず、多機能トイレの整備。多機能トイレは、車いす使用者、肢体不自由者のお客様の利便性を考慮し、かつ高齢者、妊婦、乳幼児や子ども連れのお客様の利便性を配慮したトイレとしている。手すりの設置、非常警報ボタン、付き添い、介助の方から目隠しができるようなカーテンを設置、簡易式のベッドを設置するなど配慮している。
 次にオストメイト用器具の整備について。オストメイト用器具を配置するトイレは、オストメイトの方が、自身がオストメイトであることを知られたくないという心情に配慮して、男女各トイレの洋式トイレに設置することを原則としている。
 3つ目は、大型ブースの整備について。大型ブースは、介助者を必要としない車いす使用者や肢体不自由者、高齢者、妊婦、子ども連れのお客様を対象としたブースで、男女各トイレに設置している。
 これらのトイレ設備は、当社の設計のマニュアルに必要な整備内容が取りまとめられており、全ての休憩施設のトイレで同レベルの水準が保てるように整備を行っている。

「現在進めているプロジェクトについて」 伊藤 佑治さん

 大きく4つのトピックと、進行中のプロジェクトについて紹介する。
 まず1つ目が、トイレ内部の空間計画に関する取り組みについて。お客様に高速道路のトイレを快適かつスムーズに利用していただくための工夫をしている。
 明るいほうへ行きたくなる「サバンナ効果」という心理効果を利用した、奥のトイレブースの利用を促す空間デザインである。
 次に、橋口さんにもご紹介いただいたトイレの空き状況を表示する利用案内表示板と、各ブース扉に設置したランプによる利用状況の可視化に取り組んでいる。こちらについては、元々、トイレの配置図上でどのブースが空いているか閉まっているかを表示する内容だったが、それをより直感的に、解釈せずに進行方向を判断できるように、左右の空き状況を表示する形に改善している。
 次の例は東名と新東名を中心に、トイレのブース扉にログセンサーを付けて、トイレの利用状況のビックデータを集めている。その保有データを元に待ち行列を分析し、これまで、空いているブースがあるのに、それが見えないために待ちが発生しているという状況を確認している。トイレの必要なブース数を整備することはもちろん、加えて、適切にレイアウトすることが大事であると認識している。
 また、トイレの中のお客さまの利用行動をこれまでに分析しており、そのノウハウを蓄積することで、図面を元にどのブースがどれくらい使われるかを再現するシミュレーションを作っている。グループ会社で設計のコンサルも行っており、ビッグデータにもとづく利用状況を分析し、お客様にスムーズに使っていただける工夫をしている。
 2つ目はインバウンド対応。
 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向け、洗浄便座の操作ボタンや利用方法を14か国語でご案内するタブレット端末を導入したもの。導入は、関東の海老名SA・PAを中心に、そのほかのエリアは、東名と新東名を中心に、利用頻度の高い手前のブースを中心に整備をしている。
 設置後には視覚障害者の方から意見も頂いていて、タブレットにエンボス加工を施して、「止」や「おしり」や「ビデ」ボタンに物理的ボタンを設けるとともに点字を追加している。ただ開発して設置するだけでなく、設置後のお客様からの意見を取り入れながら改善することが重要。
 次に、トイレ清掃の機械化について。
 トイレを清掃してくれている「エリアキャスト」と呼ばれる人たちの負担を軽減し、代わりにおもてなしに力を入れたいと考えている。トイレ清掃はなるべく機械化し、その最終チェックと足りないところを人手で清掃するよう業務を改善したい。
 具体的には、まず床面の清掃としゃがむ必要があって負担が大きい小便器の下部、洋式便器の清掃。その3つを機械化の大きなテーマと考えている。活動としては、2021年7月から、画像にある床の清掃ロボットを浜松SAの下り線に実際に導入して、どれだけ業務が軽減できるか、また、清掃ロボットを稼働することを前提とした業務の運用の検証を進めている。
 ほかにも、先ほど申し上げた小便器下部の清掃ロボットと洋式便器の清掃ロボットなど、グループ会社で開発を進めている。最終的にトイレ清掃の負担軽減、生産性3割向上を目標としている。
 最後のトピック。われわれはトイレの建設から維持管理まで、一貫して担っている。その中で、維持管理する段階で、お客様のご意見は、われわれにとって気づきもあり、迅速に対応することとしている。迅速に対応する上で、お客様からのご意見やお問い合わせに対して、机上で即座に現地状況を確認できるストリートビュー形式の3次元デジタルモデルを構築して、現在、維持管理での活用を試行しているところ。計測機器は、手押し車のような形で、これで計測して、パソコン上でトイレの3次元モデルを確認して、面積や寸法を確認できるようにしている。この取り組みは、まだ試行段階だが、今年度、日本データマネジメント・コンソーシアムという団体から、データマネジメント賞「先端技術活用賞」を受賞している。
 話題提供の最後にわれわれが進めているプロジェクトについて述べたい。昨今の少子高齢化、生産労働人口減、担い手不足を見据えて、先端技術を活用して高速道路の保全マネジメントを高度化するプロジェクトをわれわれはiーMOVEMENTと呼んでおり、推進している。その中にトイレ清掃の機械化がある。トイレ清掃の機械化を含めて、高速道路全般の高度化を目指しているところ。
 このプロジェクト実現に向けて、コンソーシアム方式でオープンイノベーションをする組織も、2019年7月に設立している。このイノベーション交流会では、トイレ清掃機械化を含めた当社の業務課題を企業・団体が保有する先端技術とマッチングさせて、業務の高度化を実現して、広く社会に展開することを目標としており、今、運用してから3年目を迎えて、1月末現在117の企業・団体が所属して、現場での各種技術実証を進めている。本日ご参加いただいている企業・団体・大学の皆様にあっても、先端技術をお持ちの方はお問い合わせいただきたい。
 ありがとうございました。

当日の配布資料及び質疑応答