バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関する勉強会を月に1回開催しています。

第45回バリアフリー推進勉強会開催結果概要

UDタクシーから、これからのタクシーを考える

開催日
2017年12月8日(金曜日) 13:00〜16:00
開催場所
産業技術総合研究所 臨海副都心センター別館11階第1・2会議室
参加者数
56名
講師
東京大学大学院 教授 鎌田実氏
前 神奈川県立保健福祉大学 非常勤講師
 藤井直人氏
STEP えどがわ 事務局長 土屋峰和氏
かながわ福祉移動サービスネットワーク
 事務局長 石山典代氏

講演概要

鎌田実氏

(以下、ビデオレター概要)

勉強会の様子

トヨタからJPNタクシーが登場し、日産と合わせて2社からUDタクシーが出そろい、開発の初期に携わった者として非常にうれしい。これまでタクシー車両はセダン型が主流だったが、ミニバンタイプ、UD専用タイプが標準形となり、街並みの中にタクシーの映り方が一変することを期待している。最初の検討時、車いす使用者は後ろから乗るのか、横から乗るのか議論があった。双方とも一長一短あり、決めきれないというのが当時の結論で、結果的に日産は後ろから、トヨタは横からと、選択肢が両方あるのは良かった。ただし、日産は乗車位置が少し傾斜している、トヨタは大型の車いすでは乗りにくい、乗れないとの課題がある。

UDタクシーが日本のタクシーの主流になる下地はできあがった。タクシーは一人で乗ると値段が高いが、何人かで一緒に乗るものとか、乗合タクシーの形で使われるものとか、新しい使われ方があるかもしれない。タクシーそのものをもっとうまく使っていくことを皆さんで工夫し、考えて実行してほしい。ノンステップバスが一般化したのと同様にUDタクシーも一般化し、これからの日本の公共交通がもっとよくなることを望んでいる。

藤井直人氏

(以下、講演概要)

講師 藤井さん

2004年に香港で開催されたセミナーで日本のタクシー事情について報告をしたことがある。今でこそ、「医療と福祉」の連携といわれているが、このセミナーではすでに医療分野と福祉分野が協力し、交通分野もかかわっていた。香港では、空気が悪いため、いい車両を使い、車いす使用者が快適な移動を行えることを望んでいた。オーストリアのアデレート市やスウェーデンのウプサラ市では、セダン型を改造して、車いす使用者が後ろから乗車できるようにした。サンフランシスコのスロープタクシー(Yellow Cab社)は、後ろからでも、横からでも乗車できるようになっている。

一方、東京では2000年に介護保険が始まり、車両開発も行われてきた。しかし、車いすから車両への移乗は難しく、スライティングボードやリフターを利用していた。国交省調査(2003年)では、車いす使用者の8割がタクシーを利用しないと回答し、利用しない理由は、車いすのまま乗車できないからが最も多い。そのため、トヨタのノアをベースに低床化し、横からの乗車、前向き乗車、安全性の向上を重視した試作車を開発した。評価では、8割以上の車いす使用者が乗ってみたいと回答している。また、カワムラサイクルやトヨタ自動車では、車載専用に設計された車いすの開発も行った。タクシー事業者による試作車の評価はある程度よかったが、導入意向は低い結果となった。また、UDタクシーの主な要望としては、流しで使えて、車いすでも乗車できる車両、外観デザインや耐久性がよいこと、ガソリン車以外であることが挙げられた。

海外ではすでにタクシーのUD化が進んでおり、ロンドンでは義務化されていた。実際にロンドンタクシーについて障害当事者の評価を行ったところ、室内天井高1400mmはちょうど良いと回答し、タクシー車両として理解が得られているが、これに乗れない車いす使用者は、ダイアル・ア・ライドなどの他の交通機関が補完している。また、イギリスではタクシー車両は歩道からの乗車を義務付けている。理由として、タクシー乗り場にスペースがないことや交通事故の20%が後方からの追突事故となっているからであり、日本の統計でも同様のデータが得ることができる。一方、フランスでは、アクセシブルタクシーが必要な乗客の重要に対応するための理論的な研究を行ったところ、面積95平方kmのパリ市内では520台が必要となっていた。フィンランドでは約15%がアクセシブルタクシーとして適当であると考えられている。東京都内で試算すると、約7400台が必要である。最後にまとめると、諸外国でもアクセシブルタクシー車両の開発に苦労していた。ロンドンタクシーは理想的なタクシーと評価されているが全てのケースに対応できないことを確認し、UDタクシーはタクシーの15%程度でかなりのサービスの質が期待される、タクシーのUD化は世界的に要求されており、アジアの高齢化を考えるとUDタクシー市場は決して小さくはないはずである。

金指和彦氏

(以下、講演概要)

講師 金指さん

日本のタクシーは、人口減少・高齢化による人口構造の変化により大きな転換期を迎えている。年齢別の利用目的をみると、60歳以上では@荷物が多いとき、A悪天候、B疲れているときが上位となっている。一方で、訪日外国人の利用も増加しており、利用目的は@希望する時間に利用できる、Aドアtoドアの移動、B目的地までの行き方がわからないことが上位となっており、利用ニーズは幅広くなっている。

また現状のタクシーを取り巻く経営環境は、利用者の減少や需給のバランスが取れていないことで、非常に厳しい状況である。ただし、福祉タクシーは増加しており、平成32年までに28000台(平成27年度末15026台)を数値目標としている。また、その中でもUDタクシーは2020年までに東京都内で10000台(全車両の25%)に向けて、国や自治体で補助制度を作っていただき、導入促進を図っている。

一方で多様な輸送サービスが生まれている。例えば、@福祉輸送では、京都府の(株)キャビックが平成12年から介護タクシーを立ち上げ、平成21年には京都市福祉タクシー共同配車センターをスタートし、外出支援サービスを行っている。また、A地域交通では、地域のニーズに応じた旅客運送サービスとして、大阪府河内長野市の「くすまる」や兵庫県西宮市の「ぐるっと生瀬」など、住民による暮らしの足の確保の取組みがある。B子育て支援では、滋賀県大津市からはじまった「ゆりかごタクシー」が県全体で実施されており、利用者には安心と安全を提供し、出産後のリピーター獲得にもつながっている。

堀内伸一氏

(以下、講演概要)

講師 堀内さん

日産では、2010年12月よりUDタクシーを販売している。開発の背景は、「交通弱者の増加」「高齢者・障害者の外出機会増加」によりUDタクシーの普及が求められていると判断し、開発に着手した。コンセプトとしては、どなたにも気軽にご利用いただけるため、@通常料金、A予約不要、B広い室内空間を考えた。特に、車いす使用のお客様には、スロープ(耐荷重200kg、角度11度)を使って車いすのまま乗車できるようにした。リアゲートからの乗車のため、「道路幅」「路肩の状況」「道路の傾斜」に制限されることなく乗車でき、電動式固定ワイヤーでしっかり車いすを固定するため、安全である。

現在、全国で累計約1200台が登録し、全国で配車可能エリアを拡大中である。代表的な導入事例として、鳥取県日本財団共同プロジェクトとして、鳥取県内700台のうち200台をUDタクシーとしている。また、川崎タクシーでは、NV200UDタクシーと次世代電動車いすの「WHILL」を組み合わせ、ユニバーサルツーリズムを展開している。

最後に、高齢者や障害者等の移動ニーズに応えるために、UDタクシーの改良を加えていきたいと考えている。

木原哲郎氏

(以下、講演概要)

講師 木原さん

トヨタでは、今年10月23日にUDタクシーであるJPNタクシーの販売を開始した。JPNタクシーは、2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催やこれからの超高齢社会に対応するため、@ユニバーサル化・バリアフリーな街作り、A環境に優しい街作り・安全・安心な街作り、B観光立国(ビジット・ジャパン)に寄与したいを考えている。JPNタクシーの魅力は、コンフォートを大幅に超える広い後席空間、「低床フラットフロア」と「大開口パワースライドドア」、車いすのまま乗車できるユニバーサルデザインとなっている。また、ドライバーに優しい、運転しやすい車として、コンパクトなボデーサイズ、良好な視界を確保している。一方で、LPGハイブリットを開発し、環境性能だけでなく経済性にも優れており、コンフォートよりも5年50万km走行で、約300万円程度の低減を可能にしている。

加えて、タクシーと認識できる外装デザインとし、内装も機能性を高めた機器の配置、快適装備とした。また、メンテナンスコストを低減するための工夫として、タクシー事業者からの要望があった3分割のバンパーとした。

販売開始から1ヶ月が経ち、東京都内でも見かけるようになった。これから、ますます増えていくと思うが、色々なご意見をいただきながら、誰もが笑顔になれるタクシーを目指して改良していきたいと考えている。

土屋峰和氏

(以下、講演概要)

講師 土屋さん

これまで車いす使用者がタクシーを使うのは、予約が必要な福祉タクシーであった。福祉タクシーは、自身の生活圏であればタクシー会社も状況もわかっているので、利用できていたが、出先や急きょ利用したい時などは、利用が困難であった。そのため、JPNタクシーが生まれたことで、流しでも利用できるようになったことは非常にうれしい。

しかし、2回ほど乗車したが1回目は20分、2回目は40分もかかった。乗務員はマニュアルを見たり、電話で聞いたりして、準備から乗車までのすべてに時間がかかった。最終的には、助手席を折り畳むことも知らず、車内で回転できなかったので、2回とも横向きに固定された。固定の方法も判らなかったようで、強度の弱いスポークやリムにベルトを掛けられてしまい、これでは車いすが壊れてしまう可能性がある。車いすには様々な大きさや形があるので、研修が非常に重要である。

乗車して感じたことは、車いす使用者は手間がかかる、時間がかかる、効率がわるい、乗せたくないという気持ちにならないことを願っている。今後の課題として、障害当事者を入れた研修を行ってほしい。最後に、JPNタクシーには乗っていて楽しくなるように視界を広げてほしいと要望された。

石山典代氏

(以下、講演概要)

講師 石山さん

これまで、くらしの足を確保するため、ニーズに応えて住民が福祉有償運送や公共交通空白地有償運送、外出支援ボランティア等の移動サービスを創ってきた。移動サービスとは、一人で外出することが困難な人に対して、介助や付添と安全運転を一体となったサービスを提供することであるが、地域や団体によって様々なかたちでの取組みとなっている。そのため、利用者からの相談内容は多岐にわたっており、各団体は日本財団からの助成を受けた福祉車両1台ないしは2台程度と、運転ボランティアの持ち込み車両で活動を行い、行きたい所に出かけられる社会への実現を目指している。日本における移動サービスは、1970年ごろから開始されているが、欧米に比べ30年は遅れていると言われている。

福祉有償運送は、2006年の道路運送法の改正により法的に位置づけられたが、有償運送を行う団体は現在日本国内で2500団体程度となっており、ほとんどの団体が赤字となっているため、算入と撤退を繰り返している地域が多い。さらに運転手の人材確保が難しいことや運営協議会対応・事務の煩雑化などの問題が山積している。

また、近年では交通不便地域の拡大によって、買い物難民が増加していることから、住民主体のおでかけバスや買い物バスが運行され、住民の足を確保している。さらに、くらしの足の確保のためタクシーと協働して、福祉輸送情報の一元化、UD普及啓発、UDドライバー研修にも取り組んでおり、2017年1月より横浜市では知的障がい者や重度心身障がい者の付添いなしでの乗車も運行を開始した。

外出支援活動においては、国土交通省や厚生労働省により法整備が進められ、より一層の交通と福祉の融合が求められるようになっているとまとめられました。

金康健司氏

(以下、講演概要)

講師 金康さん

タクシー事業者として、JPNタクシーやNV200に乗務させるためには、UD研修を受け、使い方を熟知してからでないと乗務させてはいけないと考えている。また、福祉輸送においては、一社だけが努力しても、車両がない、予約で一杯になり、配車ができないとなってしまい、難しい。そのため業界として、2020年のオリンピック・パラリンピックだけでなく、その先の高齢化を見据えることが大事である。なぜなら、利用者の多くが高齢者となるため、一層のUDタクシーの導入が求められ、UDタクシーが日常になることによってより使用していただけると考えられる。また、重要なことは車両だけでなく、乗務員の人材育成である。これをしっかり行わないと、UD車両を導入する意義がなくなってしますと考えております。また、タクシーとボランティアは営利面での違いがあり、できることも違うことも周知していかないといけない。

また、タクシー事業者とすると、正直JPNタクシーの方が望ましいが、車いす使用の方にとって現行では、NV200の方が乗りやすいと思います。トヨタ自動車へ、改善要求を提出し、車いすの方が利用しやすくなるのが望ましい。タクシー車両は5年入替のため時間がかかってしまうので、積極的なUD車両への導入に取り組まなければならない。これからは、安全運行とともに将来を見据えたタクシーを創っていきたいとまとめられました。

展示会の様子展示会の様子
当日の配布資料及び質疑応答