バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関する勉強会を月に1回開催しています。

第42回バリアフリー推進勉強会開催結果概要

2016年リオ・オリンピック・パラリンピックの調査報告 〜2020年東京大会に向けた取組みについて〜

開催日
2017年6月27日(火曜日) 18:00〜20:00
開催場所
TKP市ヶ谷カンファレンスセンター ホール6B
参加者数
101名
講師
株式会社 ANA総合研究所 白井昭彦氏
株式会社 GKグラフィックス 久田邦夫氏
株式会社 GK設計 功能澄人氏

講演概要

久田邦夫氏

(以下、講演概要)

講師 久田さん

東京では、「オリンピック・パラリンピック(オリ・パラ)」と一括りにしているが、IOC(本部:スイス・ローザンヌ)とIPC(本部:ドイツ・ボン)は別組織である。五輪マークは、5大陸を表現し、IPCのスリーアイマークは、「心」「肉体」「魂」を表している。その他に知的財産として、エンブレム、名称、マスコット、ピクトグラム、スローガンなどが決められており、これらを使用できるのは、組織委員会、開催都市、協賛スポンサーである。協賛スポンサーの中でもTOPと呼ばれる企業は、噂では1000億円超を拠出し、基本的には1業種1社限定になっている。日本では、パナソニック、ブリジストン、トヨタの3社のみである。これらの企業は、五輪マークを自社広告に表記できる。リオ市内では五輪マークは、空港、競技会場、会場周辺、会場内で使用されていた。

リオ大会のエンブレムは、ブラジルの象徴である「パッション」と「トランスフォーメーション」をイメージして作成されている。もともとは、3次元(3D)仕様となっていたため、後から2次元(2D)に戻したものである。使用箇所は、モニュメント、地下鉄入口、バナー、オフィシャルショップ、競技場内等であった。競技場では、五輪マーク、競技種目のピクトグラム、エンブレムを併用していた。また、@OCOGと呼ばれる公認マークは、ポスターや地下鉄車内で使用され、Aエンブレム等は、統一感を演出するため特殊な書体を活用した。B「ルック」と呼ばれるイメージ画像は、競技のゴール付近、会場付近、会場のセキュリティゲート、競技場内、インフォメーションセンター、地下鉄入口、競技場へのラストマイル、道路、乗り物、ショップ、ボランティア等で統一的に使用された。

さらに、空港では独自の内装やカラーリングを設定したが、「ルック」に合わせるように行っており、官民の一体的な表現は難しいと言われる中で、リオ大会は上手に行われたといえる。

功能澄人氏

(以下、講演概要)

講師 功能さん

リオは、「麗しの都市」と呼ばれ、南国の日差しや開放的なビーチ、音楽やアートのイメージがある。一方で、多様な社会問題として貧困・環境汚染・交通渋滞がある。

そこで、リオ市では大会を契機として、「環境配慮型都市」を目指し、環境整備を行った。レガシー整備の一つとして、公共交通の拡充が挙げられる。市内は、慢性的な交通渋滞に悩まされていたため、新たな公共交通を導入し、車依存型社会からの脱却を図った。2011年から2016年までの5年間でBRTが4路線、VLT(路面電車)、メトロが各1路線を拡充した。VLTは、次世代型路面電車システムであり、2013年から開始し、レールから電力を得る架線レスのため、軌道周辺に工作物が少なく、超低床型車両でホームと車両床面の段差が少なくスムーズな乗降が可能なことが特長である。また、BRTは2011年から2017年までに整備された専用レーン152kmのバス高速輸送システムである。東京でも整備が予定され、鉄道並のサービス水準となっており、改札機やホームドア等の設置を行っている。レガシー整備の二つ目として、観光資源をつくる再開発がある。セントロ地区マウナー広場周辺再開発の整備前は、廃墟化した倉庫が立ち並ぶ危険なエリアだった。しかし、再開発によって人間サイズの広場の造成や博物館等の整備、倉庫のリノベーションを行ったり、賑わいを生み出した。ストリートファニチュアにおいては、リオ大会を契機に案内サインが統一で整備され、観光ルートをわかりやすく表示する情報提供が行われた。

仮設のあり方については、最低限仕様の低費用(ローコスト)で行い、大会期間中限定の耐久性となっていたが、サインの色彩やグラフィックスは、コントロールされ、不足はボランティアの人的対応で補っていた。また、新たなアイデアとしては、仮設施設の解体後に設備等を学校等に再利用の予定となっていた。

松原淳氏

(以下、講演概要)

エコモ財団では、大会から数か月が経過し、各組織が最終レポートを取りまとめた段階の2017年1月に調査を行った。

組織委員会のアクセシビリティ担当者へのヒアリングでは、一時的な需要に対応しても、大会終了後は需要が縮小するため、そこをどう考えるかが重要であるとの指摘があった。また、重要な点として、縦割りの管理はグレーゾーンを生み、誰が行うのか問題となるとの指摘もあった。

バリアフリー基準のガイドラインの作成者へのヒアリングでは、2014年にワールドカップがオリンピック・パラリンピックに先駆けて開催されたが、障害者対策が十分ではなかったとFIFAから指摘されたため、対応の見直しを行った。また、アプリ開発も取り組まれたが、パラリンピック用のものは出来なかった。

オリンピック・パラリンピック準備局へのヒアリングでは、IOCのテストマッチは競技場や売店でしか行わないため、アクセス関係については自らテストを行わなければならなかった。また、マップの作成などの情報提供においては、「できる」「できない」の情報をしっかり伝えることをコンセプトとした。また、特徴的な取組みとしてトラベルプランナーアプリを1社に限定することなく、2社によるサービス提供が行われた。これは、利用者側でコンテンツにより、使いやすい方を選択できるメリットがあった。

実際の交通機関ではどのようなバリアフリー化が執り行われたかというと、@メトロでは、事前に障害者対応の研修を行っており、最後の確認も含め、オリンピック・パラリンピック前の3日間にリサイクル研修を行って、知識のおさらいを行った。Aスーペルヴィア(郊外鉄道)では、警備員が乗車補助を行う一方、エレベーターの代わりに長いスロープによりバリアフリー化を図った。BBRTでは、期間中は地下鉄が完成していなかったため、夜間の移動などの観客輸送対応を行った。CVLT(路面電車)では、大会開催前にロンドンから障害者を招待し、乗車体験等を通じて一連の評価を行って、検証した。

澤田大輔氏

(以下、講演概要)

ブラジルにおけるアクセシビリティ政策は、「障害者のための国家政策(1999)」と「障害者のアクセシビリティ推進のための規則(2004)」を基にして、ブラジル技術規格協会がガイドラインを定めている。規準は、大きく5つに分かれている。

@NBR 9050は、建築物、設備のアクセシビリティを規定し、車いすや白杖使用者が必要とするスペース、盲導犬を連れた人が必要とする幅員等を明記。開き戸が2枚連続する場合の中間スペースや階段の端部に点字ブロックを敷設する方法などが示されている。ただし、色などの規定はない。また、歩行道路の点字ブロックの敷設方法も規定しているが、現実とは違うところもあった。ANBR14021は、都市鉄道のアクセシビリティを規定し、障害者や移動制約者に対してしかるべき訓練を受けたスタッフの配置が明記されており、実際の駅での介助はガードマンが兼務していた。また、ホームの優先席は、列車の運転間隔が10分以下の場合は、1ホームにつき2席以上。列車の運転間隔が10分以上の場合等は、1ホームにつき4席以上。その他、列車とホームの間の隙間と高低差、車いすにエリア、平均照度、照明のコントラスト、点字の案内標示等の規定があった。BNBR14022は、旅客輸送機関(バスの車両)のアクセシビリティを規定し、例えば優先座席では、車両の利用可能な座席のうち最低10%を障害者又は移動制約者のためのものとし、少なくとも2席を確保する。また、車いす及び盲導犬のための確保エリアをボックス(box)と称し、ピクトグラムにより指定されている。さらに、文字が読めない人、高齢者、子ども等への情報提供には視聴覚情報により提供するものとなっている。CNBR15570は、旅客輸送用車両のための技術仕様について規定している。DNBR15646は、バス車両における障害者もしくは移動制約者向けアクセシビリティ確保のためのリフト及びスロープの仕様を規定し、バスの大きさであるM1、M2、M3のカテゴリーを規定している。

白井昭彦氏

(以下、講演概要)

講師 白井さん

ブラジルでは、リオの2空港とワールドカップの予選で開催された5都市7空港を重点空港に指定した。ベロ・オリゾンテ空港では、イギリスのオリンピック・パラリンピック選手団の合宿地となったため、多数の車いす使用者が訪れた。日本においても地方都市でナショナルチームがキャンプを行うことがあるので、対応について考えておくべきことがある。

航空輸送におけるアクセシビリティは、「ブラジル規格基準9050」(2004年制定、2015年改訂)「リオ2016アクセシビリティガイドライン」(2013年)「決議2013年第280号」により行われている。これらによりブラジル国内を離発着する全便に対し、空港・航空会社は配慮の必要な旅客に関するチェックイン、乗降、機内座席等を規定し、違反した場合に罰金1万〜2.5万レアル(約34〜85万円)も規定した。2014年のワールドカップを目指して取組まれて、過剰な投資にならないよう、特に障害者の理解教育と障害者団体のハンドリングに注力し、テストイベント(実際を想定した訓練)も数多く開催された。

空港別では、@ガレオン空港はリオの玄関口として、年間1,600万人が利用している。恒久対応として、ターミナルの増改築(355千u)を行い、エスカレーター7基、エレベーター24基を増設した。また、臨時対応として、車椅子用仮設トイレを10基、ペットリリーフエリア(補助犬トイレ等の設備)を5か所等の設置を行った。仮設トレイは、使用がなかったため撤去した。理由は、車いす使用者が荷物を持ったまま仮設を使用できなかったので、既設のトレイを使用したためである。また、ペットリリーフエリアはこれまでになかったため、恒久対応として変更した。さらに、教育においても手話、救急治療、文化/ダイバーシティ、障害者ケアなどのべ469名に実施し、ハンドリングテストも合計6回実施した。その結果、9月3日到着のAZ便(イタリア)では、選手80名、手荷物398個、車いす118個を1時間半で降機させ、業務完了を行うことができた。Aサントスドモン空港は、年間900万人が利用しており、パッセンジャーリフト車(PBL)を1台所有していた。車いす使用者に対応するため、恒久対応にPBLを2台購入し、車いす等は他の空港から借りることで対応した。Bサンパウログアリューロス空港はサンパウロの玄関口として、年間3,700万人が利用している。ワールドカップに合わせて2014年5月に第3ターミナルの供用を開始した。パラリンピック開催中は、暫定的にポルトガル語と英語の手話テレビを設置した。

一方、航空会社別では、@LATAMブラジル航空は、旅客数国際線1位、国内線2位で、年間90万人、障害者2千人、手荷物750万個を取扱い、リオ大会のオフィシャル航空会社であった。恒久対応として、緩衝材(バブル包装)を取り入れ、臨時対応として、ハイリフト車7台等は地方空港から借用した。また、教育においてはのべ5空港で1814名6370時間を費やし、配慮が必要な旅客への手順強化、PBL車操作等を実施し、ハンドリングテストも4回実施した。AGOL航空は、旅客数国際線2位、国内線1位でワールドカップのオフィシャル航空会社であった。パラリンピックでは、9か国896名の選手団の国内線の輸送を担い、車いす119名に対応した。特記すべき恒久対応としては、アクセシブルランプを2基購入した。また、教育面では電動車いすのバッテリー訓練を3,895名に対し行い、セキュリティについては乗員、キャビンアテンダント、空港スタッフ、グランドスタッフの12,734名に対して実施した。

質疑応答の様子

なお、観光省が主導するアクセシビリティツーリズム(日本のユニバーサルツーリズム)では、障害者向けのホテル、観光地、施設、動物園等を検索するアプリを開発した。特徴は、検索するのみならず、使用者が評価することで、適正な提案をすることができる。また、障害者向けのガイドブック(ポルトガル語版、英語版)を作成し、レストランに点字メニューの有無などわかりやすい情報を提供した。

当日の配布資料及び質疑応答