バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関する勉強会を月に1回開催しています。

第40回国際セミナー 開催結果概要

認知症にやさしい交通機関に向けて 〜スコットランドの事例〜

開催日
2017年5月1日(月曜日) 13:00〜15:00
開催場所
コクヨ ecoライブオフィススタジオ
参加者数
49名
講師
英国 Upstream協会 Andy Hyde(アンディ・ハイド)氏

講演概要

本セミナーの開催趣旨(エコモ財団)

    

(以下、趣旨説明概要)

世界保健機関(WHO)では、年齢に関わらず誰もが住みやすい環境づくりとして、「エイジフレンドリーシティ(AFC)」という概念をとりまとめた。その指標として、「交通機関へのアクセス」「社会参加」などの物的・社会環境、QOL、公平性の各側面があり、特に「交通機関へのアクセス」については重要となっている。

そこで、スコットランドで認知症者の外出支援を行っているアップストリーム協会主宰のアンディ・ハイドさんにお越しいただき、今後の取り組むべき課題について議論したい。

松原淳(エコモ財団)

(以下、講演概要)

日本の交通機関における認知症者の状況について述べたうえで、2016年度に実施したアンケート調査の報告を行う。日本の推計では、認知症者は440万人(65歳以上の高齢者人口の15%)であり、85歳を越えると27%に急増する。また、健常者と認知症者の間には、軽度認知障害(MCI)の人も380万人もおり、総計800万人とも試算されている。これは、日本の高齢化が顕著になったことが背景にあるといえる。

「認知症は、認知機能の障害によって社会生活などが困難になる病気の総称で、代表的な疾患としてアルツハイマー型、レビー小体型など8つがある。認知症者にもよるが、適切な支援があれば安全に外出できる方がいる一方で、見当識障害、短期記憶障害、失認・失行症状、ワーキングメモリなどの要因で外出が難しい場合もある。そのため、すべての認知症者が同じ状態ではないが、認知症=徘徊との誤解が生まれやすくなる。

アンケート調査は、2016年8月に@認知症者の公共交通利用実態、A公共交通事業者の対応状況、B公共交通事業者の認知症に関する教育・訓練の実態を把握するために行い、全国の鉄道、バス、タクシー・ハイヤー事業者の約半数の回答を得た。

アンケート結果では、8割以上の事業者が何らかの場面において、認知症者と思わる方に遭遇していることがわかった。その場合、鉄道では駅職員が、バスやタクシーでは運転手が対応している。主な対応は、家族への連絡先がわかった場合には連絡し、わからなかった場合には警察に連絡することが多い。なお、多くの事業者では、認知症者への対応マニュアルが整備されていないが、少数の事業者ではマニュアルや研修を行っている。その場合、認知症サポーター養成講座を行っている市区町村や地域包括支援センターとの連携が取られている。これらの研修の行うきっかけとして、介護施設の送迎を始めたことや資格の取得したことなど認知症者との関わりが増えてきたことに起因していた。

Andy Hyde(アンディ・ハイド)氏「認知症にやさしい交通機関に向けて 〜スコットランドの事例〜」

(以下、講演概要)

講師 Andy Hyde(アンディ・ハイド)さん

アップストリーム協会は、エジンバラだけでなく、様々な地域で活動をしている。スコットランドには、約90万人の認知症者がおり、そのうちの60%が普通に暮らしている。

数年前にESPグループ(イギリスの鉄道やバス会社に対して支援等と行う団体)との懇談の中で、「人間が社会参加するためには、交通が非常に重要である」との同じ認識を得た。そこで、認知症者の交通を考え、取組む必要があると感じ、活動を開始した。

活動をはじめるにあたり、認知症者が実際に公共交通を利用する時の状況を調べるため、エジンバラ以外にアバディーン等の都市で調査を行った。これらの都市では、すでに様々な取組みが行われており、認知症者に絵を見せての感想を得たり、話を聞いて絵を描くことを行っていた。その中で、この10年間、まったく公共交通を使っていない方に、どんなことがあるといいか伺ったところ、「誰かとおしゃべりをしたい」との意見があった。つまり、公共交通を利用している時は、社会とつながっていたいと感じていることがわかった。そのため、公共交通事業者には、コミュニティスペースを提供しているとの認識をもってもらう必要がある。また、写真などを見せて、認知症者からの見え方やアイデアを知ることが大切である。例えば、バス停ではバス停の絵(マーク)があると認識しやすいとの意見があった。しかし、バス停までの道のりの横断歩道には、違う3種類の絵(マーク)があるため、たどりつけなくなっていることもわかった。さらにバスなどのチケットについても、購入や支払方法が難しく、加えて事前割引やオンラインなども利用することができなく、不公平感を抱いていた。

認知症者と交通システムについては、@デザインの問題、Aスタッフの教育問題、B社会全体の意識問題があると言える。また、認知症者が公共交通を利用するためには、@自信を得ること、A不安を取り除くこと、B不平等をなくすこと、C理解を得ることが必要である。

一方で、認知症者の課題がわかってくると、アイデアも生まれてくる。例えば、英国の長距離鉄道は、往復でチケットを購入することが多いのだが、記載されている文字が小さいため、非常にわかりにくい。そのため、色で識別できるように往路は緑色、復路は黄色のプロトタイプを作成すると、わかりやすくなった。要は、パーソナライズできるようにすることが大切である。また、ロンドンのガトウィック空港では、外見上わからない障害者にストラップを配布するとともに、職員には接遇の研修を行い、全体の意識を高めて、環境づくりを行っている。フェリーにはクワイエットラウンジを設け、静かな環境が必要な方に提供している。

アップストリーム協会では、認知症者の経験、問題、アイデアを把握し、交通事業者向けの訓練を開発している。それを実践することで、認知症者の課題を認識し、知識を蓄積することで、公共交通を利用できるように取組んでいる。具体的には、認知症者の意見を聞き、それを交通事業者に提供し、認知症者と交通事業者が一緒にワークショップを行うことで、双方が理解していくことである。これに取組むことで、交通事業者は今までわからなかったことが発見でき、認知症者は公共交通の利用に自信がついてくる。バスや鉄道等は、乗ることが目的ではなく、目的地に行くための手段である。また、ワークショップをすることで、例えば、認知症者にはホームと車両をつなぐスロープの床面が黒であると、穴があるように見えていることがわかった。

第40回勉強会の様子

その他に認知症者の自動車の運転問題がある。認知症と診断されると、運転をやめなければならない。しかし、生活において日常的に利用している方にとっては、やめることはアイデンティティーの喪失につながる。マイカーから公共交通機関への移行には、十分なサポートが必要となる。

最後に、認知症者と交通においては4つのポイントがある。@認知症者が主体的に活動すること、Aサービス、基準、トレーニングの作成に認知症者が参加すること、Bそれらの作成したものを交通事業者は取り入れること、これらを実践することで認知症者が自信をもって交通を使えるようになると考えられる。

    

謝辞

本勉強会は、認知症フレンドリージャパン・イニシアチブ(DFJI)と共催で実施した。開催にあたっては、DFJI代表理事の岡田誠氏に多大なるご支援、ご協力を頂き、コクヨ株式会社には会場のご協力を頂いた。この場をお借りし、厚く御礼申し上げます。

当日の配布資料及び質疑応答