バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第39回バリアフリー推進勉強会 開催結果概要

障害者差別解消法のこれからを考える

開催日
2016年12月16日(金曜日) 13:00〜16:00
開催場所
産業技術総合研究所 臨海副都心センター別館11階第1・2会議室
参加者数
92名
講師
日本障害者協議会 代表 藤井克徳氏
DPI日本会議(前 内閣府障害者制度改革担当室政策企画調査官)副議長 尾上浩二氏
コーディネーター
東洋大学ライフデザイン学部 教授 高橋儀平氏
パネリスト
DPI日本会議 バリアフリー担当顧問 今西正義氏
東京都知的障害者育成会 副理事長 永田直子氏

講演概要

「すぐわかる!障害者差別解消法−社会の障壁をトリ除こう」(エコモ財団)

    

本冊子は、利用者・交通事業者の双方に利用していただくために作成した。冒頭の「はじめに」は、利用者向けに公共交通機関の利用で困った代表的な事例を、反対に交通事業者向けに施設整備以外の取組みを紹介している。そして、「障害者差別解消法」についてわかりやすくポイントを絞って、解説している。社会的障壁をなくすためには、個人ではなく社会の側で変わることが重要であり、具体的には駅構内や車両で対応することである。一方、2014年に実施したアンケート調査結果では、約8割の障害者が差別を経験したり、見たり聞いたりしたことがあり、その多くが「職員の対応が不適切だった」と回答している。そのため、社会的障壁を取り除く合理的配慮が必要であり、「できない」と判断する前に、どうすれば対応できるかを考えることが必要である。要は、「過度な負担」を明確化するのではなく、利用者とともに解決策を考えることである。

    

「合理的配慮」は難しい訳ではなく、すでに交通事業者の中には好事例を実践しているところもある。例えば、盲導犬の訓練センターと連携して、盲導犬が円滑にバスを利用できるようバス車両を貸出して訓練の支援などを行っている。その他にも、障害当事者が加わった研修の実施、対応方法などの情報共有、お客さまへの情報開示などがある。一方、利用者としても差別を受けたと感じたら、まず申し出や相談することが重要である。申し出や相談により関係者が情報を共有し、差別の解消や防止につながっていく。

    

2000年の交通バリアフリー法の施行以来、公共交通機関における施設整備は進んでいるが、差別解消においては接遇や態度等が問題の中心となる。コミュニケーションを通じて、何に困っているのか、気づくことが重要である。


参考:すぐわかる !障害者差別解消法(エコモ財団)



藤井克徳氏

(以下、講演概要)

講師:藤井さん

2016年を振り返ると、まずは4月の「障害者差別解消法」の施行に大きな期待を抱いた。
しかし、同月、熊本地震が発生した際、東日本大震災の教訓が生かされていなかったり、7月には津久井やまゆり園事件、8月や10月には視覚障害者のホーム転落死亡事故など障害者故に起きた事件・事故が相次いだ。
一方、「障害者差別解消法」については、期待の中でのスタートだったが、滑り出しは必ずしも順調ではない。これからどうしていくべきか議論が必要である。「これから」については、「当面」と「3年後の2018年」と区分けすることが大事。

「障害者差別解消法」の制定の背景は、「障害者権利条約」の批准のための国内法整備の一つとして立法化が図られた。法律の性格は、実体法であるが、内容は理念法に近く、対象の範囲も曖昧な部分や限定的な部分も多い。
施行後8ヶ月が経ち、顕在化してきた課題もある。1778自治体のうち、対応要領の制定を行っているのは、45%に留まり、21.5%は当面の制定見込みはないとしている。また、障害者差別解消支援地域協議会の設置は、努力義務となっていることからも、30%しか設置されておらず、40%は当面の設置見込みはないとしている。これは、深刻な状況である。
理由としては、障害当事者も含め法律の周知や広報が弱いことや、市役所や役場に行ってもしかたないと諦めている障害当事者が多い。また、「合理的配慮の不提供」などはなかなか理解してもらいにくい考え方である。実効度を高めるために関係者に今一度、障害者権利条約の深度化を図る取組みなどが必要ではなかろうか。おかしな言い方かもしれないが、当事者からの相談件数が多いことを誇ったり、競い合うくらいがあってもいいのではないかと思う。交通分野における差別解消の取組みは、他の情報や雇用などの分野に比べ、進展していると思うので、全体を盛り上げていくけん引役を担ってほしい。


尾上浩二氏

(以下、講演概要)

講師:尾上さん

「障害者差別解消法」における対象者は、「すべての障害者」である。身体、知的、精神、発達障害に加え、これまで法の谷間とされていた難病患者も含まれており、「障害者権利条約」で謳われている「社会モデル」の考え方を踏まえたものとなっている。法律で規定している禁止される差別は、「不当な差別的取扱い」と「合理的配慮を行わないこと」の2つである。今後、この法律をどう使いこなしながら、どう育てていくかが重要である。要は、原理的な転換を図っていくことにある。「障害者権利条約」においても「私たちのことを、私たち抜きに決めないで」という当事者参加が基本となっている。

また、条約とは、憲法と国内法を間に位置付けられ、条約を遵守するために、必要に応じて国内法を改正していくものとなっている。「障害者権利条約」において繰り返し「他の者との平等」とのフレーズが使われ、障害のない人との平等が強調されている。第9条では、物理的環境、輸送機関、情報通信等に平等にアクセスできるようにすることを求め、地域間格差の解消も言及している。さらに、第20条では障害者自身ができる限り自立して移動することを容易にすることを確保するが求められている。つまり、今後はあるがままの障害者を社会が受け入れて一緒に活動できるインクルージョンの考え方、インクルーシブな社会の構築が求められる。

差別解消とバリアフリー(アクセシブル)を考えると、これまではバリアフリー法に基づき一定の設備改善を進めてきたが、これからは合理的配慮を提供するための環境整備として、サービスが拒否されることなく、利用しやすくなるための平等や尊厳をキーワードとした取組みが必要となってくる。例えば、アメリカの吉野家では、ADA法に基づき、入口の段差解消だけでなく、他者と平等に利用できるようテーブル席、可動式椅子となっている。また、お客だけでなく、従業員としても働くことができるような施設環境となっている。

最後に、障害者差別解消法を活かすためには建設的な対話が重要である。その妨げとなるNGワードとして、具体的にどうすればよいかを考える前に思考を停止してしまう「もし、何かあったら…」、他者との平等を確保するための個別調整である合理的配慮への理解不足から来る「特別扱いできません」や「先例はありません」がある。これまでの取組みを変えていき、どうすれば利用できるのか、本人とともに考え、方向性を転換することが重要である。


パネルディスカッション

(敬称略)

パネルディスカッションの様子

橋:藤井氏からは、「障害者差別解消法」は画期的であったが、2016年4月の施行から暗い雰囲気が漂ってしまったという指摘があった。法の周知が不十分であるため、実態把握、普及啓発がもっと必要である。自治体への相談件数を競い合うことも積極的に展開する方法として良いのではないだろうか。また、「障害者差別解消法」は、障害のある人たちだけの問題ではなく、障害のない人たちの問題にもつながる。ようやく差別や偏見について、表立って議論できるようになってきたと感じると指摘があった。


尾上氏からは、基本的な前提条件として「私たち抜きに私たちのことを決めないで」という権利条約の精神、他者との平等が「障害者差別解消法」、「障害者権利条約」に共通してあることを、今一度確認をすることが必要である。「障害者権利条約」が目指す社会は、インクルーシブな社会である。1981年の国際障害者年から『参加と平等』をテーマとし、ノーマライゼーションという言葉が広まった。病気や障害のある人を地域社会から隔離することは異常であり、健康な人たちだけの社会は脆い社会である。海外の事例を日本に持ち込むために今後どうするかという事も議論が必要である。

パネルディスカッションの様子「障害者差別解消法」を活かすため、NGワードとして「もし何か起こったら」、「特別扱いできない」などの提案があった。「障害者権利条約」第2条でもユニバーサルデザインについて解説されており、「調整又は特別な設計を必要とすることなく、最大限可能な範囲で全ての人が使用することのできる製品、環境、計画及びサービスの設計をいう。ユニバーサルデザインは、特定の障害者の集団のための補装具が必要な場合には、これを排除するものではない」とされている。つまり、一人ひとりが違っていることを前提としている。2020年東京オリンピック・パラリンピック(以下、オリパラ)に向けて「バリアフリー」、「ユニバーサルデザイン」について、一般市民が関心を持ち始めている。このようなことは未だかつてなかった。1970年代からバリアフリー、そしてユニバーサルデザインと発展してきたが、障害当事者や専門家たちだけの議論であった。

今西:交通分野においても、車いす使用者が電車を利用する際、「長時間待たされる」、「迂回しなければならない」、「安全の確保という理由で乗車拒否される」という状況は変わっていない。しかし、そのような中でも変化の兆しはある。

今西さん「障害者差別解消法」第5条の中で、「合理的配慮を的確に行うため環境整備に努めなければならない」という規定が組み込まれた。内閣官房では、共生社会の実現に向けてユニバーサルデザインをどのように作っていくかについて考えており、まとめの作業に入っている。このまとめの考え方としては、「障害者権利条約」の理念を踏まえ、「差別を行わないよう徹底すること」、「社会的障壁を取り除くことを社会の責務として行うこと」、「障害の社会モデルというあり方について考えを変えていくこと」を基本としている。「心のバリアフリー」、「ユニバーサルデザインの街づくり」の分科会が設置され、オリパラに向けて進められていくのだが、オリパラだけではなく、その後の社会をどのように作っていくかという取組みをしている。
「心のバリアフリー」分科会においては、社会モデルをきちんと取り込んだ形で障害者を取り巻く具体的な課題について、どのように取り組むべきかという研修の策定を進めている。この研修は、障害当事者が講師として加わって行う。
「UD街づくり」分科会においては、これまでの課題であったハンドル型電動車いすの乗車拒否問題についての見直しについて取り組んでいこうという動きがある。

また、民間事業者でも現場だけではなく、管理者も含め障害者差別解消について理解する動きが始まっている。差別を減らしていくためには、現場の人たちの意識、利用する障害当事者の意識を変え、時間はかかるが、このような取組みを続ける必要がある。環境整備を徹底する中で、現場レベル、組織としての対応を浸透させ、障害当事者もきちんと参加しながら、障害当事者団体とのコミュニケーションを構築していくことがより重要になると考える。
これから3年後の見直しに向けて多くの事例を積み重ね、データを基に合理的配慮を環境整備に組み込むことが次のステップに繋がると考える。

永田:ちょうど1年前のセミナーでは、知的障害者の特性や想定される差別について、また、知的障害者が権利や差別に対してどのような意識を持っているのかについて話した。その際、自ら作らざるを得ない心の壁があり、今後への期待として、知的障害者自身の意識の変化が大切であること、自尊心を持って堂々と歩んでほしい、心の声を伝えてほしいという話をした。

永田さん2016年4月に「障害者差別解消法」が施行され、その矢先の5月に津久井やまゆり園の事件が起こった。9月に本人部会が開かれ、この事件についてのワークショップが開かれた。
事件に対して、重い障害があっても人間、生きていくことは当たり前、幸福になる権利はある、今までも偏見はあり今回の事件で表に出ただけ、という声があった。今の気持ちは?という問に対して、涙が出た、世の中の人が自分たち障害のある人のことをどう考えるのかと思うと外に出るのが怖い、子どもの頃悪口を言われたときのことを思い出した、という意見があった。犯人に対しては、コミュニケーションが足りなかった、相談できたら良かった、というとても優しい気持ちの意見があった。防犯対策などについては、自分たちは安全が守られないと生きてゆけないという意見があった。支援者に対しては、私たちが楽しく暮らすのを支えてくれる人、サポートしてくれる人が大事という信頼感を寄せている人がほとんどであった。
ワークショップを終えての感想では、何人もの人から、自分の気持ちを声に出せて良かったという声が聞くことができた。こちらが真摯に耳を傾けると、知的障害のある人も素直に気持ちを出してくれる。自分たちは生きている意味があるのか、支援者を信じて良いのかと、不安を感じている本人たちに対して会長の名前で文書を出した。それがマスコミにも取りあげられ、反響があったのだが、それに対して寄せられた意見の1割が障害者に対する誹謗や中傷の声であった。犯人と同じように、重度の障害者は生きる価値がない、本人や家族は不幸である、という考え方を持った人がいるのだと逆に知らされた。そのような身勝手で間違えた考えに対して、支援者や家族が一緒なり笑顔いっぱいの写真を特集として育成会交流誌に掲載した。私の載せた写真は25年前、娘が生まれた時の兄弟3人の写真である。

第39回バリアフリー推進勉強会の様子今日のテーマは「差別解消法のこれからを考える」ということで、特に知的障害や精神障害、発達障害についてはもちろん障害の特性を知ってもらい、環境整備や情報提供をすることが大事であるが、他の人と同じように扱われない寂しさや、どのような配慮をしてほしく、どうしたら不安がなくなるかを伝えられない辛さをどのように気付いてもらうか、ということに帰結するのではないかと思う。あえて、次の一歩を進めると、これまでは交通機関に限定して色々な事例を紹介してきたが、交通機関の利用は日常生活のほんの一部。地域での生活全体に目を向けて、多く事例の中から、困難感を共有していくことが大事ではないか。今、親の会では、キャラバン隊や疑似体験も広めている。加えて、本人たちと関わることを増やしていくことが大切である。本人たちも自分たちを理解してほしいと一生懸命自己表現している。これからも色々な機会に本人たちと接してほしい。

当日の配布資料及び質疑応答