バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関する勉強会を月に1回開催しています。

第36回バリアフリー推進勉強会開催結果概要

障害があっても自転車に乗るということは…
〜下肢障害者の体験談&さまざまな自転車のはなし〜

開催日
2016年9月30日(金曜日) 18:00〜20:00
開催場所
ライフ・クリエーション・スペース OVE南青山
参加者数
52名
講師
スーダン障害者教育支援の会(CAPEDS)理事 土橋喜人氏
コーディネーター
自転車活用推進研究会 理事長 小林成基氏

講演概要

本セミナーの開催趣旨(エコモ財団)

    

(以下、趣旨説明概要)

日本における自転車の課題として、走行空間の問題がある。自転車はそもそも軽車両であり、走行空間は「車道」である。ただし、高齢者や幼児同乗であれば、「歩道通行」が認められている。道路交通法では歩道通行が認められているが、道路法では自転車歩行者道の存在があるため、歩道を通行してもよいという誤解がある。また、自転車とは「普通自転車」※ を指し、歩道通行が認められる自転車の要件となるが、最近ではけん引車を引いている宅配用自転車が歩道通行しているなどの問題が増加している。また、「タンデム自転車」の公道走行は禁止されていたが、自転車関連団体や視覚障害者団体などの要請を受け、近年では長野、兵庫、大阪など12府県で使用が認められはじめている。 これらを踏まえ、今後、障害者が自転車を利用するための課題等について議論したい。

(※「普通自転車」は、以下の条件を満たすもの。【大きさの条件】長さ190cm以下、幅60cm以下【構造の条件】側車が付いていないこと、乗車装置(サドル、座席)が1つのみであること(ただし、幼児用座席は付いていて構わない)、制動装置(ブレーキレバー)が走行中容易に操作できる位置にあること、歩行者に危害を及ぼす恐れがある鋭利な突出部がないこと。)

土橋喜人氏「障害があっても自転車に乗るということは… 〜下肢障害者の体験談&さまざまな自転車のはなし〜」

(以下、講演概要)

講師 土橋さん

1998年11月にフィジーで交通事故にあい、股関節、膝関節、足関節、手首を負傷し障害を負った。以降、ロフストランド杖を使用し、生活している。数年前にふとしたことをきっかけに障害者用自転車を知り、入手して利用をはじめた。そこで、その経験を話すことによって、障害者でも自転車に乗れ、QOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)が上がることを知ってもらいたいと考えている。本講演は、今年の8月に函館で開催された日本福祉のまちづくり学会全国大会で発表した内容を詳細にしたものである。今回の発表の目的は、障害当事者が乗用可能な自転車を入手する過程と入手後の利用をレビューすることによって、中途障害者が自らの残存機能を活かして新たな交通手段を獲得するプロセスを考察し、一人でも多くの方に可能性を知ってもらうことで、QOLを高めてもらうきっかけにすることである。

◇自転車の入手について

はじめに、障害者用の自転車に関して近所の自転車店やインターネット等で情報収集したが、あまり集められなかった。なぜなら、そもそも障害者用自転車の研究は少なく、存在自体も知られていないのが現状である。また、障害者用自転車はカスタムメイドであるため、高額となり、購入者が少ない。そのような中、ホームページで「膝が悪い人でも乗れる自転車」を紹介していたM自転車工場に連絡すると、「ほとんど曲がらない膝」には対応が難しいとのことだったが、三輪自転車で有名なH製作所を紹介された。電話連絡をすると、社長自らが対応してくれ、「二輪の自転車を工夫すれば乗れそうだから頑張れ」とアドバイスを受けた。その後、I自転車店でリカンベントバイクを推奨され、和田サイクルで改造し、入手することができた。

◇リカンベントバイクについて

リカンベントバイクとは、仰向けに寝た姿勢で乗る自転車で、そのために前輪の車輪(タイヤ)よりもペダルが上にある。そのため曲がらない左膝を伸ばした状態でも、前輪の車輪が足にぶつからずに自転車を運転することができる。入手したリカンベントバイクは、セミリカンベントバイクで、ミズタニ自転車製で前輪16インチ、後輪20インチの3×6の18段変速車であった。これに@ペダルをSPDペダル(シマノ製のビンディングペダル。シューズの裏に止め具を装着し、ペダル側とかみ合わせて固定するもの)に改造し、右足だけで漕げるようにした、Aチェーンリングの左足ペダルの位置に鉛の重りをつけ、回転しやすくした、B曲がらない左足の置き場を設置したなどの改造を施した。ただ、スムーズに乗れるまでには2か月程度かかった。また、絶対に無理をしない、雨の日、暗い時間帯は乗らないなど安全乗車のために多くの気をつけていることがある。

◇QOLの改善について

第36回勉強会の様子

自転車を入手することができたことによって、行動範囲が広がった。例えば、自転車の購入前に片道4.7kmの妻の実家へは、バス・電車を乗り継いで42分程度、タクシーでは往復4,000〜5,000円程度が必要だったが、購入後は28分程度で行けるようになった。また、気持ちにも変化が現れ、今まであまり行くこともなかった(できなかった)ところまで行けるようになった。結果的に、行動範囲の拡大、時間の短縮、行動意欲の増加、コストの削減等が改善し、QOLは高まったといえる。

◇考察(まとめ)

自転車の購入計画から完成までのプロセスを図式化し、考察すると、まずは障害者が障害者用の自転車の情報を収集できることが必要である。その上で、その障害者の身体機能に適合した自転車や改造など適切な助言ができる専門家(技術者)に相談できること。そして、それらの一連の流れや対応等について関係者が情報を共有するとともに、障害者用の自転車を入手した方やその入手に携わった方が情報発信することで障害者用の自転車利用や普及において重要だと考えている。

当日の配布資料及び質疑応答
     
関連リンク
当日の動画(YouTube『自転車活用推進研究会』チャンネルにて公開)