バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関する勉強会を月に1回開催しています。

第35回バリアフリー推進勉強会開催結果概要

手話言語条例と今後の展望 〜兵庫県明石市の取組みを中心に〜

開催日
2016年8月24日(水曜日) 18:30〜20:30
開催場所
TKP市ヶ谷カンファレンスセンター カンファレンスルーム7D
参加者数
41名
講師
一般財団法人 全日本ろうあ連盟 理事 荒井 康善氏

講演概要

本セミナーの開催趣旨(エコモ財団)

    

(以下、趣旨説明概要)

障害者権利条約において「手話は言語である」と明記され、日本では2013年10月に鳥取県で初めての「手話言語条例」が制定された。以降、8月24日現在51の自治体で制定されている。また、そのうちの3自治体においては、手話言語の確立だけでなく、情報取得の保障やコミュニケーション手段の利用に関する「情報・コミュニケーション条例」も制定された。そこで手話言語条例や情報・コミュニケーション条例の成り立ち、手話言語法の制定に向けた取組みなど聴覚障害者を取り巻く環境をテーマに開催するとともに交通バリアフリーにおいて、どういう配慮が必要なのか、皆で考えてもらう機会にする。

荒井康善氏「手話言語条例と今後の展望 〜兵庫県明石市の取組みを中心に〜」

(以下、講演概要)

講師 荒井さん

聴覚障害者にとってのバリアフリーとはなにか。補聴器や手話を使用していない時、見た目は健聴者と一緒であるが、音声での情報は入手することができない。そのため、視覚による情報を必要とすることから、情報障害と言われている。つまり、聴覚障害者にとってバリアフリーとは、視覚による情報を整備することである。

◇障害者権利条約について

障害者権利条約の思想は、「医学モデル」を排し、「社会モデル」を採用することである。「社会モデル」とは、すべての障害者が障害のない人と同等に生きることができること、社会に参加するためには言語が必要であり、文化の理解が必要である。そのため、権利条約第2条第2項では、「言語」とは、音声言語及び手話その他の形態の非音声言語をいうと定義されている。また、第21条第1項では、公的な活動において、手話、点字、補助…(中略)…及び容易にすること、同条第2項では、手話の使用を認め、及び促進することが謳われている。さらに、第24条第1項では、手話の習得及び聾社会の言語的な同一性の促進を容易にすること。要は、ろう学校の教員は、出来る限り手話で教育を行うこととしている。しかし、大学等でのカリキュラムで手話教育を取入れているところは少ない。

◇国内法の整備について

障害者権利条約の批准に先立ち、日本では国内法の整備が行われた。2013年に施行された障害者総合支援法では制度として不十分な点がある。例えば、意思疎通支援事業の整備においては、各自治体により予算規模が違うため、レベル別の手話教室が開催されていないことや、他の地域からの手話通訳派遣が認められていないことがある。
また、ろう学校では手話の使用が認められなかった時期があり、その時期は口話しか使えなかったため、十分な言語能力を得られず、社会参加することができなかった。そのため、ろう教育から手話を排除しないためにも「手話言語法」の制定に取り組まれている。手話言語法は、「手話を獲得する」「手話で学ぶ」「手話を学ぶ」「手話を使う」「手話を守る」ことから、ろう者が手話で生き、生活する権利を保障するものである。例えば、政治への参加であれば、先日の都知事選では21人の立候補者がいたのにもかかわらず、そのうち数人の候補者の政見放送に手話放送がなかったので、その候補者の考え(マニフェスト)を知る事ができなかった。

◇情報・コミュニケーション条例について

日本で初めて、鳥取県が手話言語条例を制定し、その後、51自治体が制定している(東京都内の自治体は、まだ一つも制定されていない)。その中で、兵庫県明石市では手話は言語であることに情報保障を加えた「手話言語を確立するとともに要約筆記・点字・音訳等障害者のコミュニケーション手段を促進する条例(情報・コミュニケーション条例)」を2015年4月に施行した。この条例の特徴は、手話は言語と明確に認めた上で、手話とともに、要約筆記や点字、音訳等、手話以外の障害者の多様なコミュニケーション手段の利用の促進を規定している。また、具体的な施策を当事者、支援者とともに協議する場として、「明石市手話言語等コミュニケーション施策推進協議会」の設置等を行っている。条例制定に伴う効果としては、手話通訳者・要約筆記者派遣事業の対象範囲の拡大による利用増等があげられる。

◇条例制定に向けてのビジョン

第35回勉強会の様子

「障害のある人もない人も誰でも安心して暮らす続けられるまちづくり」が本当のバリアフリーだと思う。逆に言うと、条例がなくても障害者が安心して暮らせるまちづくりができることが理想。東京都の現状は、条例がなく、もし災害があった場合、障害のある方が意思疎通や情報の取得が困難で避難時に的確な行動がとれないのではという不安がある。東日本大震災時では、あらゆる情報が音声であったので、わからなかったことが多数あったとの経験もある。また、身近な問題として、鉄道トラブルで緊急停車や人身事故が発生した場合、車内等の電光掲示板だけでは十分な情報を取得することができない。

◇まとめ

最後に、手話だけでなく、障害者に対して効果がある内容かどうか考えることが合理的配慮の基本である。例えば、ある工場で健聴の作業員は灰色の帽子、聴覚障害の作業員はカラーの帽子とした事例では、障害者を差別しているのか、あるいは緊急時の支援、救助ができるようにしている配慮かどうかを判断するのは難しい。しかし、関係者で何度も検討して決められたこと、またその聴覚障害の作業員が納得したことであれば、それは合理的配慮といえる。つまり、お互いを理解すること、ともに考えていくことが必要となる。そのためにも、手話コミュニケーションは重要な要素であり、手話を普及することが重要である。

当日の配布資料及び質疑応答