バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関する勉強会を月に1回開催しています。

第28回バリアフリー推進勉強会開催結果概要

視覚障害者の道路横断にまつわる課題と新たな方向定位支援ツールの提案

開催日
2016年1月29日(金曜日) 18:30〜20:30
開催場所
TKP市ヶ谷カンファレンスセンター カンファレンスルーム7D
参加者数
38名
講師
日本大学理工学部 助教 稲垣 具志氏
コメンテーター
中央大学研究開発機構 教授 秋山哲男氏

講演概要

稲垣具志氏「視覚障害者の道路横断にまつわる課題と新たな方向定位支援ツールの提案」

(以下、講演概要)

講師:稲垣さん

視覚障害者の交差点横断に対する支援施設について、現状の設備では十分ではなく、特に横断口の歩車道境界部の整備状況が重要である。視覚障害者の移動時の基本的な方向定位の技法として、スクエアリングオフとトレーリングがあり、道路横断の際にもこれらを応用することが多い。ここで、道路横断時に縁石を用いてスクエアリングオフを行うことを想定すると、正十字でない交差点のように横断方向が縁石の並びに対して直交していない場合や、縁石が湾曲配置で設置されている場合などは横断歩道から逸脱してしまう危険な事例も多く報告されている。また、これまでに全国のあらゆる場所において、歩車道境界部の現状調査を行った結果、横断口付近の誘導ブロックの敷設方法が不適切であるケースが数多く散見された。このように手がかりとなり得る施設の信頼度が地域、場所によって異なる状況は当事者のストレスをかえって助長する結果となっており、常に視覚障害者に対して正確な横断方向の定位を保障することのできる支援策を検討している。

第28回勉強会の様子

そこで、新たな手法として横断口の点状ブロック付近に、線状突起を横断方向に対して垂直に敷設することで横断方向の定位を支援できないかと考えた。評価実験は、成蹊大学構内の敷地内道路で、点状ブロックに対する位置、点状ブロックまでの隔離、突起断面形状、進入角度の各要素を組み合わせて実験パターン(32種類)を作った。まず、全盲の実験参加者からの主観的評価(@見つけやすさ、A横断方向の定位のしやすさ、B横断の安心度の7段階評価)を得た。コンジョイント分析の結果、点状ブロックまでの隔離、断面形状が特に重要であることが分かった。また、点状ブロックに対する位置については、前方配置よりも後方配置の方が、足裏の触覚において線状突起のみに集中できるため利用しやすいと回答を得た。一方、観測による客観データについて多元配置分散分析を行った結果、点状ブロックに対する位置は、発見・方向定位までの時間において前方配置の方がわずかに優位であったが、より重要な横断時の歩行軌跡の横方向のずれでは後方配置の方が優位であることが分かった。以上を整理すると、台形2本の線状突起を後方配置で点状ブロックからの隔離を8〜12cmとすれば、支援の有用性と施工の汎用性の観点から望ましいと結論づけられた。さらに、ロービジョン者の道路横断も併せて支援するため、線状突起にLED発光機能を持たせる方法について室内実験を行った。その結果、10Lxの環境下では1本発光、輝度106cd/m2が最も良好であった。これらの結果を踏まえて、現在は徳島市内の県道で実証実験を行っており概ね評価は高く、今後詳細な分析を行う。

成果をまとめると、現地調査やヒアリング調査から横断支援施設の整備状況が不十分あるいは不適切であること、方向定位に特化したツールの必要性と当事者のニーズがあることがわかった。また、交差点横断の新たな支援方法として、方向定位ブロックの最適な仕様(台形2本、後方配置、点状ブロックからの隔離8cm、1本発光、輝度106cd/m2)が抽出できた。今後は、支援の有効性や視覚障害者以外の道路利用者の視点を含めた受容性評価などを継続的に検証していきたい。

秋山哲男氏:コメント

コメンテーター:秋山さん

視覚障害者の歩行と誘導ブロックの敷設技術については、日本ではあまり研究されていない。そこで、交通工学的に視覚障害者に着目したのは、希少価値が高い研究と言える。視覚障害者誘導用ブロックの研究でも様々な議論を行って、その総和として社会の進歩や発展に寄与するべきである。また、業界団体や当事者団体等の様々な団体とともに議論を行うことによって良い方向に進めてほしい。

さらに、都市空間と視覚障害者の誘導の議論が必要となっており、視覚障害者誘導用ブロックが多すぎることや、間違って敷設していることなど敷設に問題がある一方、音サインとの関係性が重要となっている。鉄道駅には、十分な視覚障害者誘導用ブロックが敷設されているが、安全でもなく、一人で歩けない状況となっているため、これまでの考え方を改めなければいけない時期となっている。視覚障害者誘導用ブロックが万能な設備ではない以上、鉄道駅においては人的介助が必要であり、人的介助の代替として、視覚障害者誘導用ブロックと情報通信技術や音サイン等との組み合わせにより、総合的な発展も期待したい。

当日の配布資料及び質疑応答