バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第19回バリアフリー推進勉強会開催結果概要

ロンドン大学発 高齢者・障害者のモビリティ、アクセシビリティ研究

開催日
2015年1月15日(木曜日) 14:00〜17:00
開催場所
主婦会館プラザエフ 3階 コスモス
参加者数
28名
講師
ロンドン大学(UCL) 講師 Dr. Holloway Holloway氏
ロンドン大学(UCL) ロンドン大学PAMELA研究所・研究技術職員 鈴木立人氏
コメンテーター
神奈川県立保健福祉大学所 非常勤講師 藤井直人氏
コーディネーター
中央大学研究開発機構 教授 秋山哲男氏

講演概要

はじめに秋山氏より、ロンドン大学は交通について様々な研究を長年実施し、歴史のある大学であることが紹介されました。近年では、Nick Tylor氏が全世界的にアクセシビリティの研究を行っており、Holloway氏と鈴木氏はその研究室に属しています。そこで、今回のワークショップはロンドン大学のアクセシビリティの研究のうち研究施設「PAMELA」を活用した研究についてお話いただきました。

講師:Hollowayさん

次に、Holloway氏より、「Designing accessible transport system for ageing population(高齢化社会に向けた公共交通システムのアクセシビリティデザイン)」と題し、ロンドンのバス、鉄道、地下鉄のアクセシビリティについてお話いただきました。

最初はバスについて。イギリスの65歳以上の高齢者は、バスで毎日800回以上も転倒しています。そこで、バスに加速度センサーを設置し、データ解析を試みた結果、バスの加速度から分析する方法は可能だが、ルート上のバス停を検出することはできました。しかし、ルート上の異なる加速度を分類することはできることが報告されました。二つ目に鉄道(高速鉄道)について。車両には3つのステップが存在しています。そこで、乗降時のステップの影響について検証を行いました。ステップ条件として、@レベルアクセス(水平)、AUK基準の高さ、BTSI(欧州基準)の高さをPAMELAで再現し、7800回の乗客の動きを分析しました。その結果、Pushchairの利用時の乗降を比較すると、乗車時はTSIが最も時間がかかるが、降車時はUKが最も時間がかかることが解説されました。また、年代別に比較すると、レベルアクセスの乗降時間に年齢の差はほとんど見られないが、TSIの乗降時間は20〜27歳と65歳以上では大きな差がありました。3つ目は、地下鉄について。現在、Transport for London(TfL)と協同で、2020年の車両更新に向けてモックアップを活用し、様々な研究を実施しています。例えば、ドア幅、Stand back、座席の種類、ホームドアとのギャップなどの比較検証を行いました。ドア幅は、滞留時間が小さくなるように広い方がよく、Stand backは乗降動線を考え、300mmが望ましい。座席の種類は、Tip-upよりPerchの方が滞留時間を短縮できます。ホームドアとギャップは、ないことに越したことはない。最後に、乗客流動分析結果のサンプルを提示いただきました。

講師:鈴木さん

続いて、鈴木氏より、「Individual accessibility for aged visual disabilities by Dementia (視覚障害を持つ認知症患者のアクセシビリティについて)」と題し、お話いただきました。研究の背景として、認知症患者には視覚障害を伴うことがあります。アルツハイマー病の主な症状としては、記憶が消失してしまうことであるが、発症すると脳の視覚野に影響を与えます。そこで、認知症患者の視覚障害について、原因が目ではなく脳に起因していると仮定し、それを説明できる状態の患者の状況を把握し、知覚の問題を明らかにしています。なお、PDA患者は、@大きい文字が読めない、A焦点が合わせられない、Bものの場所が特定できなくなる、C静止物が動いて見える、D色も識別できなくなるという視覚特性があります。

勉強会の様子

また、PCA患者にはどのようなアクセス問題があるのか検証を行いました。パイロット実験として、被験者には照度の異なる通路、階段、出入口で各タスクを与え、視点と体(手首、腰、足首)の動作測定し、分析を行いました。その結果、障害物や暗い状態では歩行速度が遅く、階段ではエッジテープがあると早くなることが確認されました。それを踏まえた主実験の結果、@通路と階段では、明るい場合、直線、U字、S字でも問題がない、A階段では、昇りより下りが、明るい場合より暗い場合が遅い、BLEDは歩行の支援に機能する、C階段の下りの最後の段差に自信がないことが明らかになった。また、開放した出入口では、歩行前にドアを確認したが、テーブルがなければ問題はありませんでした。なお、テーブルや壁に衝突することはなかった。

最後に、今後の課題として、2015年3月から継続実験を行うこと、日常調査、視覚的な手がかりの試験、支援デジタルメガネの開発等に取り組むことを報告いただきました。

コメンテーター:藤井さん

続いて、藤井氏より、お二人の発表についてコメントがありました。まず、Holloway氏の研究については、全世界的に同じような研究に取り組まれているので、もっとネットワークを強化してはどうか。また、高齢者の移動補助具として、歩行器の普及が進んでいます。例えば、スウェーデンでは30万人もの利用者がいます。公共交通機関での問題点として、鉄道では置き場がないこと、バスでは乗降が大変なことなどの課題が指摘されました。さらに、ロンドンと同様に日本でもバス車内での転倒事故は発生しており、日本のバス事業者の中には高齢者を転ばせないための取り組みとして、添乗員を配置し、声掛け等を実施しています。また、鈴木氏の研究については、アルツハイマー病が聴覚や視覚に障害を及ぼしているのは驚きがありました。加えて、それらの方を視覚や聴覚の障害者として対象者に含めていないことが問題であると指摘されました。

当日の配布資料及び質疑応答