バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第16回バリアフリー推進勉強会開催結果概要

ロンドンにおけるオリンピック・パラリンピックの交通に関する調査報告会

開催日
2014年11月6日(金曜日) 13:30〜16:20
開催場所
ソラシティカンファレンスセンター Room B
参加者数
87名
講師
中央大学研究開発機構 教授 秋山哲男氏
報告者
一般財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 大会準備運営局 パラリンピック担当部長 中南久志氏
東京地下鉄株式会社 経営企画本部経営管理部 課長 榎本進氏
公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団 バリアフリー推進部 澤田大輔、竹島恵子

講演概要

講師:秋山さん

はじめに秋山氏より、今回の調査報告会は、ロンドン大会での経験や成果を2020年の東京大会にどのように取り入れられるか、調査結果を含め関係者と情報共有を行うためのスタートであると趣旨説明がありました。

続いて、澤田、竹島より、2014年6月に実施したロンドン調査について、「ロンドンオリンピック、パラリンピックにおける交通バリアフリー施策」と題し、報告を行いました。調査は、2014年6月に秋山氏を団長とする総勢10名により、イギリスの行政、交通事業者、大会関係者、大学関係者等に対してヒアリング等を行ったものです。2012年に開催されたロンドン大会は、既存の公共交通機関と自転車や徒歩による移動を有効に活用したことで「公共交通機関の大会」と言われ、「レガシー」「サスティナビリティ」「インクルーシブ」を大会の理念として掲げ、取り組まれました。

また、ソフト面の対応として、@情報提供については、一目でわかりやすい案内表示にするため、大会に関係する情報を「マゼンタ色」で統一。A情報の一元化については、移動検索サイトの「Journey planner」と「Direct Enquiries」等の活用により総合的に提供。B交通事業者の連携については、鉄道利用時の介助などの予約システム「National booking system」を活用したサポートの創設。Cボランティア・スタッフの対応については、大会開催の2年前から募集し、1年前から教育を実施。なお、交通事業者は職員のモチベーションを高めるため、記念冊子の配布など様々な工夫を行いました。D一般市民向け啓発活動については、「Get Ahead of the Games」というキャンペーンを実施し、「Reduce」(不要な移動は行わない、自家用車の利用を避ける)、「Reroute」(目的地まで別の経路で移動する)、「Retime」(時間帯を変えて移動する)、「Remode」(違うモードを使う)の4つのRを掲げ、取り組まれました。

調査結果を踏まえ、東京大会への課題として、@鉄道については、充実した既存設備を活かしつつ、不足する部分の補完、代替手段の検討が必要であること。Aバス・タクシーについては、車両面の改善余地が大きく代替手段の役割を担えるかが課題であること。B需要予測については、早めに正確な予測を行い、積極的な交通需要マネジメント(TDM)施策の展開を考えること。C公共交通機関及びそのバリアフリー経路等の情報については、一元化された情報提供ツールを整備拡大すること。D公共交通機関の従事者やボランティア等への充実した研修や教育機会の提供が望まれることを提言しました。

講師:榎本さん

次に、榎本氏より、東京メトロ“魅力発信”プロジェクトについての話題提供がありました。東京メトロでは、2020年オリンピック・パラリンピックの開催地が東京に決定したことを受け、開催都市の重要な交通インフラとして、3つのキーワードを設定し、各種施策に取り組んでいることが発表されました。1つ目のキーワード「沿線地域との連携、東京を楽しく」として、さまざまな媒体を通じた、駅周辺のエリア・歴史/文化・観光情報等の提供や東京の魅力が詰まった主要エリアマップの作成などを行うこと。2つ目のキーワード「地下鉄をわかりやすく快適に」として、運行情報データなどのオープン化によるアプリ開発の促進、駅構内サインシステムの改良、駅係員によるご案内の強化、多言語情報の充実などを図ること。3つ目のキーワード「世界トップレベルの安心でお出迎え」として、エレベーター等の増設による複数ルートの整備の推進などを行うことが示されました。



講師:中南さん

続いて、中南氏より、2020年に向けたアクセシビリティの取り組みについての話題提供がありました。組織委員会の活動として、まずは2020年に向けてバリアフリー化のガイドラインの策定を行うこと。ガイドラインの策定においては、内閣府、東京都、組織委員会を中心に関係者の協力を得て実施する予定であることが発表されました。

作成手順としては、国内にある様々なバリアフリーガイドラインの確認作業を行い、国際パラリンピック委員会(IPC)が求める推奨基準を満たし、承認を得ることが必要であり、論点として@IPCが求める推奨基準をどのように満たすか、A国内のガイドラインに定めのない基準をどのように策定するかであると示されました。

最後に、秋山氏より、「ロンドンオリンピックの概要(2012年)と東京オリンピック(1964年)」と題し、主にロンドン大会の理念であった3つのキーワードについて話題提供がありました。一つ目の「レガシー」(「受け継がれるもの」という意味)は、ソフト面・ハード面の両方において「大会後に何を残すべきか」という視点で取り組みました。特に、施設については、「恒久施設」にするのか、「仮設施設」にするのか、「中間的な施設(大会後に改修、移築した上で利用)」にするかを整備の判断材料とされました。二つ目の「サスティナビリティ」は、環境に配慮した大会として環境負荷の低減を図るため、二酸化炭素の排出量の軽減、再生可能エネルギーの活用、資源のリサイクル、交通事故や騒音の抑制などに取り組みました。三つ目の「インクルージョン」(「包摂」「一体性」という意味)は、年齢、宗教、民族などの様々な違いを乗り越え、社会的な一体感を高めるため、例えば、建築物においては、オリンピック施設整備庁がインクルーシブ設計基準を定め、車いす使用者用の観戦スペースの場所や座席数、宗教上の配慮から個室型の礼拝施設の設置などに取り組んだことが示されました。

2020年の東京大会に向けて、ロンドン大会を規範とし、関係者が知恵を出し合い、様々なバリアフリー施策に取り組んでいくことが必要であるとまとめられました。

第16回ワークショップの様子  第16回ワークショップの様子

当日の配布資料及び質疑応答