バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第14回バリアフリー推進勉強会開催結果概要

障害者権利条約と情報アクセシビリティ

開催日
2014年7月25日(金曜日) 18:00〜20:10
開催場所
TKP市ヶ谷カンファレンスセンター カンファレンスルーム3C
参加者数
28名
講師
東洋大学大学院 経済学研究科長・教授 山田肇氏
弱視者問題研究会 会員 芳賀優子氏

講演概要

講師:山田さん

はじめに山田氏より、障害者権利条約や障害者差別解消法における情報アクセシビリティについての話題提供がありました。

「障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約)」第9条において、輸送機関同様に「情報通信」は利用する機会を確保するための適当な措置をとること(直接的差別の禁止)が明記されています。例えば、大学受験の情報や就職試験のエントリーはインターネットが当然となっている現在の社会環境では、情報通信を利用できなければ社会参加できない時代となっています。このような中、障害者や高齢者は情報化に乗り遅れていることが多く、地上デジタル化後のテレビリモコンはボタンが多いため使いにくかったり、銀行ATMのタッチパネルは操作が難しかったりします。そのため、2004年5月に障害者や高齢者に配慮するためのJIS規格X8341(「やさしい」と読む)シリーズ「高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス)が策定されました。ウェブは、多くの利便や情報をもたらしますが、アクセシビリティに対応していなければサービスを利用できない人もいます。また、今後さらに増加が見込まれるスマートフォンに対応できていないことにも問題があります。しかし、障害者や高齢者にとって情報の電子化はあらゆる面で有効であるとともに、プライバシーの確保の観点からも効果があります。

日本はJIS規格を策定しましたが、まだまだ操作しにくい、利用できない情報通信機器やサービス(製品)があふれています。そこで、このような状況を打破するため、欧米政府が取り組みはじめた情報アクセシビリティの公共調達基準が参考となります。例えば、アメリカでは、リハビリテーション法508条に基づく施策として、2001年6月より情報アクセシビリティ配慮製品の調達が連邦政府の義務になりました。これにより企業は技術基準に準拠する製品開発に取り組むとともに、準拠をアピールのひとつとして活用することができるようになりました。このようにアクセシビリティを要件化したことで、企業は規模の大きな公共調達での購入が保証されること、政府は公共調達コストが増大する一方で、支援技術のための福祉予算を削減できること、利用者は利用可能な情報通信機器・サービスが充実することでそれぞれの立場においてメリットが生まれました。

勉強会の様子

一方、2016年4月に施行する「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(略称:障害者差別解消法)」第7条に行政機関等の義務が明記されていますが、公共機関におけるウェブアクセシビリティ対応については、原則、義務とすべき直接的差別の禁止にするのか、それとも過重な負担を伴わない場合の合理的配慮として間接的差別の禁止にするのかが課題となっています。例えば、オーストラリアでは1992年に「障害者差別禁止法」第24条において直接的差別の禁止が明記されており、2000年のシドニーオリンピックでは、この法律を根拠とした組織委員会サイトに苦情申し立てがあり、賠償金の支払いが課せられました。

国際的にはウェブコンテンツに関する標準「WCAG2.0」で、達成等級の基準として、「A」、「AA」、「AAA」が定められています。英国、ドイツ、韓国、ニュージーランド、カナダなどでは、ウェブは公共性のある施設の一つと位置づけられ、「WCAG2.0」の達成等級も「AA」が目標となっています。

そこで、日本の公共機関におけるウェブアクセシビリティの経済効果を算出するため、ウェブアクセシビリティに対応するためのサイト改修費を自治体(中央官庁を含む)のサイトリニューアル費用から推計しました。サイトリニューアルの前提条件として、CMS(Content Management System)を導入し、アクセシビリティに対応することとしました。具体的には、人口100万人以上の自治体と中央官庁の111、人口10万人以上100万人未満の自治体が278、人口10万人未満の自治体が1453とし、それぞれのサイトリニューアル概算費用を5000万円、1000万円、600万円としました。その結果、すべての公共機関のサイトで達成等級「AA」準拠を目標に、CMSを導入する総計は、約170億円なりました。一方で、身体障害者(18歳以上)の雇用率が0.1%向上すれば、増加する賃金は100億円以上となり、アクセシビリティに対応したサイトリニューアル費用はまかなえる可能性があることからも、ウェブアクセシビリティ対応は直接的差別の禁止で進めていくことが望ましいとまとめられました。

講師:芳賀さん

続いて、芳賀氏より「弱視者の日常生活から感じる情報アクセシビリティの大切さ」と題し、話題提供がありました。

視覚障害者は、日常生活における様々な場面においてウェブから多くの情報を収集しています。しかしながら、最近のウェブにおいては、動画や画像等が多くなっており、音声では理解することが難しくなっています。最低限、画像の説明をテキスト提供されていることが望ましい。

また、近年PDFによる情報共有や暗号化されたパスワードなどのセキュリティ対策等については苦労しています。さらに、旅行の時などは様々な問題点に直面します。例えば、障害者割引制度を知らない職員が対応したり、バリアフリー設備は整っているが、いざ使い方が分からない時に直接職員に聞きたいけれど職員が常駐していないなどの問題があります。すべてのことに共通するのが、ICTなどの機器や情報だけ、人だけというようなサービスではなく、両者の組み合わせによるサービス提供が重要であるとまとめられました。

当日の配布資料及び質疑応答